忍び寄る「サル痘」、日本の臨戦態勢は十分なのか 重症化率は低いがウイルスが変異する恐れも

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国内で天然痘ワクチンを製造するメーカーの1社に、明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクスがあり、今回の臨床研究にも参加している。臨床研究では、発症や重症化の予防効果を検討する。国内でサル痘の感染が確認された場合、感染者の家族などの濃厚接触者が天然痘ワクチンを接種できるようになる。

一方で天然痘治療薬を製造する国内メーカーは現在存在しない。サル痘の患者本人を対象とした治療薬の臨床研究では、アメリカのメーカーが製造する「テコビリマット」という天然痘向けの薬を用いた試験を実施。サル痘患者に対する治療効果と安全性を確認する目的での投与が可能となった。投与する対象者は50人の予定だが、感染者が想定以上に増えた場合は、対象者数を増やす可能性がある。

武田、第一三共はワクチン開発の予定なし

国内製薬メーカーの間では、サル痘対応で目立った動きは見られない。

そもそも感染症用の医薬品は、流行の度合いが予想しづらく、ビジネスとしてのリスクが大きい。とくに治療薬は患者が出ない限り使用されず、海外でサル痘への効果が認められているテコビリマットのような治療薬もあるため、現時点で率先して開発するインセンティブは少ない。

ワクチンであれば予防として使われるため、比較的売り上げのメドは立てやすい。だが、武田薬品工業、第一三共は「現時点でサル痘向けワクチン開発の予定はない」としている。新型コロナのワクチン開発にリソースを集中させていることが、主な理由だ。

今後、サル痘の感染がどのような広がりを見せるかは不透明な部分が大きい。臨床研究を立ち上げることで“応急処置”の体制はできたものの、ワクチンや薬の投与を行う主体は、今のところ国立国際医療研究センター病院に限定される。想定以上の感染拡大が起きた場合の対応については不安が残る。

新型コロナの感染拡大に伴うさまざまな規制が取り払われつつある一方、忍び寄る新たなリスク。感染症対応に気を抜けない状況は続きそうだ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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