戦後77年の今だからこそ「ナチス映画」が持つ意義 レイシズムは世界中で、依然として存在する

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

④前線で戦う兵士に限らずすべての人々が、自分の行いが自分や愛する人々の命を危険にさらす狭間で生きている。今現在安泰でも、何らかの判断を誤れば即座に逮捕され、処刑される。このような切迫感は、今日の民主的な社会では一部の国家や地域を除けば考えられない。

⑤関連映画の多くは実話に基づいている。第二次大戦では、600万人のユダヤ人が虐殺され、数千万人が戦場等で命を落とし、数億、十数億の人々が巻き込まれて平穏な日常を失った。愛する人との永遠の別れがあり、奇跡的な再会もあった。罪を犯しながら赤道を越え逃げ延びる者と、これを追う者がいる。無数の、作り物ではない真の人間の歴史がある。

⑥以上のような要素を持ったストーリーやシチュエーションは、フィクションでは説得力を持って構築することは難しいが、関連映画ではそれができる。スリル、サスペンスを交えて描くことができる。戦争映画では、スペクタクルの見せ場も作れる。自分が感情移入した人が救われ、憎むべき人が滅ぶと気持ちがいい。

⑦人間には怖いもの、恐ろしいものを見てみたいという欲求がある。自分の知らない外国の事物や歴史を学びたいという知的欲求もある。温かな情愛に触れて癒されたいという思いもある。関連映画はこれらの願いを叶えてくれる。

⑧人種差別による殺人や虐待、国と国との戦争はあってはならないと皆が願っている。関連映画を観ることは、なぜあのようなことが起こったのかを改めて考えるきっかけとなる。今を生きる我々が亡くなった人を追悼し、彼等のために果たすべき責務である。なぜ、今も新たな作品が生まれるのか。

戦後70年でナチス映画が増えてきた理由

本稿を書いている2022年は、1939年の第二次大戦勃発から83年、1945年の終結から77年目の年である。終戦の年20歳だった青年が97歳、5歳の子供も82歳の老人となっている。戦争の記憶は間違いなく失われていくのである。

人間は忘却の生き物だと言われるが、ナチスによるユダヤ人の虐殺や非人道的な行為、第二次大戦の悲劇を忘れてならないことは言うまでもない。関連映画が作り続けられるゆえんは、まずはそこにある。

ところで、本書で触れてきたように、第二次大戦からおよそ70年の節目である2010年ごろから、欧米において「ヒトラー・ナチス映画」が数多く作られることになった。

そこには以下のような背景があると思う。

次ページその背景とは?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事