中東民主化ドミノに現実的対応を示す米国オバマ政権《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》
今村卓・丸紅米国会社ワシントン事務所長
リビアで進行中の政変は米国の主要メディアのトップニュースであるが、その報道姿勢は熱気を欠いている。それは、リビア政府が海外メディアの取材を厳しく制限しているからだけではない。現在進行中であるカダフィ体制の崩壊やそれに伴う混乱が、米国に与える影響が良くも悪くも大きくないからである。
リビア政変を客観視する米国
リビアは、2003年に大量破壊兵器の開発計画を放棄してから米国や英国との関係改善が進み、米国は04年に経済制裁を解除、06年にはテロ支援国家の指定も解除してリビアとの外交関係を正常化していた。今回の政変は国内では強権支配を続けたカダフィ体制の崩壊であり、オバマ政権にとってみれば、リビアの民主化へ向けた改革が2000年代半ばの対外関係の改善という第一段階、今回の強権支配の崩壊という第二段階を経て、大きく進展することになる。
しかも米国政府と協調関係にあった他の中東の独裁体制の国々と異なり、リビア国内の反体制派は反米意識に凝り固まっているわけではない。カダフィ体制の崩壊後にリビア国内にイスラム原理主義が広がる恐れも大きくはない。
さらに、同体制崩壊が米国にとって重要な中東和平プロセスに変化を及ぼすとは考えにくい。イスラエル自体がリビアの動向を警戒していない。以上の点を勘案すると、カダフィ体制崩壊そのものが米国の国益を損なうことは考えにくい。
オバマ政権の懸念材料はリビア政権崩壊ではなく原油高騰と政変波及
むしろオバマ政権の懸念材料があるとすれば、カダフィ体制の崩壊自体ではなく、崩壊から生じうる次の二つの波及効果であろう。一つは原油価格の高騰という経済的効果、もう一つは政変の他の中東諸国(北アフリカ地域含む)への波及という政治的効果である。
リビアの原油生産の減少が米国に与える影響は限定的だが、カダフィ体制が国内の石油生産設備を破壊するなど暴挙に走る場合や政変が続いて生産中止が長期化する場合には、リビアの生産減少をサウジアラビア等の増産で補えなくなり、原油価格が1バレル120ドル台を超えて高止まりする恐れがある。