中東民主化ドミノに現実的対応を示す米国オバマ政権《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》 

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 中東地域で民主化ドミノが起きている印象はあり、オバマ政権はこの展開を普遍的価値の拡大として歓迎していると思われる。だが、それを自らの外交政策の成果とは到底考えていないだろう。

今回の政変の連続は、一部の専門家が唱えるブッシュ前政権の民主化構想の実現ではない。同構想は前政権のうちに限定的な成果を得ただけで挫折し、オバマ政権は継承しなかった。中東民主化の挫折から得た教訓を活用しようとしただけである。

民主化ドミノの次の対象を求めるという発想はなく、これまで同様に、自主的に民主化を選ぶ国が現れたら支援しつつ、その国の体制変化から米国の国益を守り拡大するために何が必要かを考えて対応するという現実的な動きを続けると思われる。

こうしたオバマ政権の対応は「ドクトリンのない外交政策」として一部の外交専門家から批判を受けているが、現政権は現実志向を修正する気などない。前政権のような中東民主化構想やフリーダムアジェンダといったドクトリン重視とは対極にあるオバマ政権の現実志向、目の前の現実を踏まえて国益を守るための最善の戦略を組み立てようとする姿勢を理解して、米国政府の今後の中東政策を展望していく必要がある。

意外と国内の批判が少ないオバマ政権の中東政策

また、こうしたオバマ政権の慎重な姿勢に対する米国内の批判があまり多くないことも認識しておく必要がある。

オバマ政権は、国内で保守派から強い批判を受け、昨年の中間選挙では保守派、それと多くが重なるティーパーティー運動の後押しを受けた共和党が躍進した。しかし、ティーパーティー運動は外交政策に関心が高くなく、一枚岩でもない。国内では小さな政府を求めながら、外交政策では世界における米国の覇権を求めるという矛盾を抱えた勢力がいる一方で、憲法を守り建国の理念に戻ることを強調する人々はかつてのモンロー主義に通じる意識を持っている。ティーパーティー運動と整合性があるのは、当然、後者である。
 
 また、保守派の中では、財政赤字を拡大させ、共和党の不振をもたらしたブッシュ前大統領に対する批判は強く、同大統領の進めたイラク戦争や中東民主化構想を否定する向きも少なくない。中東民主化構想も、ブッシュ前政権下で影響力を誇った「ネオ・コンサバティブ」の考え方に基づいているのであり、現在の保守派の多くや、ティーパーティー運動とは異質の存在である。

その結果、内政と異なり、オバマ政権の最近の中東政策に対する国内の保守派からの批判は限定的となっているのであり、オバマ政権に方針転換等を迫る圧力の弱さにもなっている。こうした点からも、オバマ政権の現実志向の中東政策が今後も続くと予想できるのである。
(聞き手:中村 稔 =東洋経済オンライン)
写真:Youtubeより

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