中東民主化ドミノに現実的対応を示す米国オバマ政権《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》 

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 政変が同じく独裁国家であり主要産油国であるサウジアラビア等に広がる場合には、世界の原油市場の受けるインパクトはリビアの政変の比ではなくなり、原油価格は150ドル台を超えて200ドル台もあり得る。中東和平プロセスへ影響する国も混乱に巻き込まれれば、イスラエルが警戒を強め、反体制派デモの拡大とは異質の新たな緊張が中東地域に生じる恐れもある。
 
 しかし、どちらの波及効果も顕在化するリスクはまだ小さいだろう。日量160万バレルのリビアの原油生産はすでに急減して原油価格に上昇圧力は掛かっているが、石油生産設備の破壊などの長期的な悪影響が不可避となるショックは生じていない。サウジアラビア等への政変の波及も、チュニジア政変以降の経緯をみれば可能性を否定できないが、実際の兆候はない。原油については、リビアの一時的な生産低迷をサウジアラビア等の他の主要産油国が補うという標準シナリオが通用していると考えられる。中東和平プロセスが揺らぐ気配も、それを警戒するイスラエルが予防的な働きかけを強めている様子も見当たらない。

挫折済みの米国の中東民主化構想、今の政変の波とは無関係

一方で、チュニジア、エジプトからリビアへの拡大しつつある長期独裁体制が倒れる政変の波に対して、オバマ政権が戦略的、積極的に影響力を行使してはいないこと、これまで米国の国益を維持できていることには幸運な側面もあることに注意しておく必要がある。

従来からの米国政府とエジプト軍との緊密な関係、2000年代のリビアの国際協調体制への転換が、エジプト、リビアの政変を経ても米国の国益が守られたことにプラスに働いたことは確か。しかしオバマ政権はいずれの政変に対しても実現を促進するような働きかけは行っていない。ブッシュ前政権は中東民主化構想を提唱したが、現実的な戦略を欠き、挫折した。

オバマ政権は民主主義に普遍的価値は認めるが他国への押し付けは禁物と考え、自主的に民主化を進めようとする国を支援するという基本方針を選んだ。今回の三カ国への対応もその方針に沿った対応であり、上記の前政権から継承した実績とこの方針に基づく慎重な対応の組み合わせが奏功したと考えられる。

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