53歳で異業種へ…元NHK看板アナが体験した試練 外される世代と自覚し、新人として飛び込んだ

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パソコンと格闘する内多さん。数年たち大分慣れてきた(写真提供:新潮社)

また、組織の中でも数えるくらいしか人脈がなかった。何かの案件で他部署に相談しようにも、誰に聞いていいのかわからない。その都度、建物の中を右往左往、歩き回る。自分は正真正銘の新人なんだと呆然とした。そんな状態で必要な情報が入ってくるはずもなく、内多さんが作った資料はスカスカ。しまいには、「ハウスマネジャーとしての自覚を持ってください!」と怒られた。ショックだった。

さらに試練は続く。カンファレンスと呼ばれる会議では、医療用語が頻繁に飛び交うが、その用語がわからない。その都度、パソコンでわからない言葉を調べるが、次から次へと新しい用語が飛び交い、ついていけない。連日夜遅くまで残業をして睡眠不足だった内多さんには、専門用語が子守唄のように聞こえてきて、ある日ついに会議中にウトウトしてしまった。

「内多さん、なんで会議で寝てるんですか?」ガッツリ怒られた。この歳になって、居眠りで怒られるなんて……。情けないし、恥ずかしい。とにかく上からも下からも怒られたが、至らない自分が原因だからしょうがない。すみません、と頭を下げ、ただひたすら謝ることしかできなかったという。

「転職して、初心に戻って頑張ります!と口では言っていたものの、骨の髄までそうは思っていなかったのかもしれないです。NHKという華やかな場所で仕事をしていくうちに、無意識に優越感が生まれちゃったのかもしれないですね」と語る。

ただ、残念な話だけではなかった。全国の講演会から声がかかり、自身の転職はもちろん、医療的ケア児の実情について話をしたり、もみじの家について発信することができた。コロナ禍に入ったが、施設の寄付も試行錯誤しながら募ることができた。運営も安定してきた。さらに、厚生労働省に対して、保育活動やリハビリテーションを評価する日中活動支援加算が新設された。これは、目に見える結果としてわかりやすく、内多さんも大きな達成感を味わったという。さらに、全国で家族会を発足するなど活動は多岐にわたった。

ダッシュできる体力が残っているか

53歳で転職して現在59歳となった内多さん。「転職して良かったか」と聞かれたら、今は自信を持って「良かった」と言えるという。

転職を勧められたときに、「年齢的にチャレンジできる最後のチャンス」「これを断ったら一生後悔することになる」――。そんな自分の声に素直に従えてよかったと内多さんはかみしめる。

もちろん転職して最初から上手くいっていたわけではない。ただ、転職前は、自分の立場や役割のしんどさを知る由もなかった。実際に足を踏み入れてみないとわからない誤算や困難はそこらじゅうにあった。でも知らないからこそ思いっきりダッシュできるし、ダッシュできる体力が残っているうちに動けたことも良かったという。無謀とも思える決断を下せたと語る。

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