ECBの緊急会合、欧州の定番的な危機再燃への焦り 落ち着きのないラガルド流コミュニケーション

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しかし、「タダで支援する」というわけにはいかないだろう。いつもどおり、財政再建や構造改革にまつわるコンディショナリティ(端的には宿題)を課さなければドイツを筆頭とする健全国からの理解は得られないはずである。この調整にはいつもたいへんな交渉を要する。具体策がまだ出てこない理由もここにあるのかもしれない。

定例会合をないがしろにすべきでない

さて、なぜ今回、緊急会合が開催されたのか。前述のように、6月9日の政策理事会でも分断化阻止のため、必要に応じて既存の政策措置を調整する意思があることを強調していたにもかかわらず、イタリア国債の利回りは急騰してしまった。これは定例会合で何の具体策もなかったことへの失望と考えられ、焦ったのだと思われる。

しかし、今回の緊急政策理事会で明らかになった情報は6月9日時点とほとんど大差ないものだった。折しもFOMCが0.75%の幅で利上げするという観測が強まり、これに連れてユーロ圏の金利も押し上げられてしまうことを懸念したとも思われるが、そうであれば何らかの具体策提示は必要だったのではないか。

確かに緊急政策理事会後、域内の利回りは下がっているものの、具体策抜きで7月21日の次回定例会合までこの状態が維持できるだろうか。7月1日からは拡大資産購入プログラム(APP)の買い入れが消失するのだが、勝算はあるのだろうか。そのたびに「検討していますよ」と緊急会合を開催するわけにもいくまい。

5月23日のブログ騒動と同じく、「なぜ定例会合で言わないのか」という事案が続いており、ラガルド流コミュニケーションの落ち着きのなさが目立つ。最高意思決定機関であるはずの政策理事会の定例会合を軽視することはいずれ「市場との対話」を難しくするリスクをはらむ。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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