ECBの緊急会合、欧州の定番的な危機再燃への焦り 落ち着きのないラガルド流コミュニケーション
6月15日、金融市場の目はアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)における0.75%の利上げ決定に注がれたが、その直前にECB(欧州中央銀行)が緊急の政策理事会を開催するという動きがあった。喧騒の中で起きた出来事ゆえ、「あれは何だったのか」という照会を今になって多くいただくので、簡単に整理しておきたい。
6月15日、ECBは急遽『Statement after the ad hoc meeting of the ECB Governing Council』と緊急政策理事会の声明を発表した。議題は「域内の市場分断化(market fragmentation)」。これは、ECBが危機のたびに抱える定番の論点である。
昨年12月に正常化プロセスへ動き始めて以降、ECBは繰り返し市場分断化に対し柔軟な措置を取る意思を表示しており、6月9日の定例会合でもそうだった。そのため今回の動きは従前の情報発信と一応整合的ではある。だが、1週間前に定例の政策理事会を開催していることを踏まえると、場当たり的な政策運営という印象も与えてしまう。
ユーロ圏の抱える「市場分断化」リスク
「市場分断化」というフレーズに馴染みの薄い読者もいると思われるので、簡単に解説したい。
このフレーズはECBが歴史的に多用してきたものだ。ユーロ圏の加盟国ごとに金融市場の状況が異なるのは常態だが、特に危機時は南欧などの脆弱性がクローズアップされやすくなり、その国債利回りが跳ねやすくなる。
ECBの金融政策は19種類の金融市場に対して1種類しか打てないため、通常の政策対応ではそうした不規則な変動を抑制できない事態に直面することがある。今回の臨時声明文で「金融政策正常化に係る不均一な波及経路(the uneven transmission of the normalisation of our monetary policy)」と表現しているように、政策運営が意図した効果を発揮できない事態も出てくる。
こうした「市場分断化」は欧州債務危機(2010~2012年)において、緩和的な政策を打っても南欧諸国の金利が下がらないという事態に直面して、何度も問題視された。ECBにとって最初の資産購入政策は2010年5月に導入された証券市場プログラム(SMP)だが、これは当時、初期段階にあった欧州債務危機で進んでいた市場分断化に対応するものだった。
このSMPがその後、ドラギ元ECB総裁の有名な「ユーロを守るためにはなんでもやる(whatever it takes)」スピーチを介し2012年9月に無制限国債購入プログラム(OMT)へと発展する(SMPは廃止)。ECBがファンダメンタルズから正当化されないと判断した域内金利格差は分断化現象と評価され、特定国の国債に調整(端的には重点的な資産購入)が実施されることになる。
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