石炭不足の英SL鉄道、「人糞燃料」が救世主に? 炭鉱閉鎖や輸入困難で「バイオ石炭」注目高まる

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輸入石炭の使用は一時的な解決策にはなるかもしれない。しかし環境にも経済的にも優しくない。そのため、長期的な解決案として「人工石炭」の開発が進んでいる。しかし、こうした代替燃料は「これだ」というものがまだ確立されていないのが実情だ。

イギリスではSLの保存・復元が盛んだ。2008年12月に愛好家たちによって復元されたSL「トルネード」(筆者撮影)

ある保存鉄道では、SLを動かすに当たり、オリーブの殻や古着などを混ぜた「eCoal」という燃料を、本物の無煙炭と一緒に燃やす実験を行っている。しかしeCoalは、従来の石炭と比べ、コストが少なくとも2倍。小さな保存鉄道にとっては、かなり大きな金銭的不安となる。

そんな中、ヒトが排出した大便を使ってバイオ石炭を作ろうという動きが具体的になってきた。これまでの研究では、大便が混ざった下水を250℃で加圧した後、凝縮して固形の塊にする手法でバイオ石炭が製造できるという。このバイオ石炭はすでに、ノースヨークシャーにある保存鉄道のSLで実験に成功。今後、ほかの保存鉄道でも採用される可能性が高まっている。

「バイオ石炭」SLは広がるか

HRAのオーツCEOは「バイオ石炭の成功は、英国におけるSLの歴史において重要なマイルストーンだ」と手放しで喜びを示している。バイオ石炭の商業利用に向けて生産に踏み切ったCPLインダストリーズ社は、「無煙燃料はSLオペレーター各社のニーズに応えられる」と鼻息が荒い。

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ただ、懐疑的な意見もある。「火を消すプロ」である消防士の1人は、可燃物がどのように燃えるかを研究した経験から、「バイオ石炭を燃やすにはこれまでと異なる技術が必要」とし、「石炭と異なり、異常な高温で燃えるかもしれない」と警鐘を鳴らす。

保存鉄道の運営団体はこの先、カーボンニュートラル、つまり温暖化対策を念頭に入れながら、石炭不足によるコスト増加という難問にも立ち向かわなければならなくなってきた。イギリスの鉄道は、「きかんしゃトーマス」や「ハリー・ポッター」などを通じて日本の子どもたちにも身近なものとなっている。石炭の入手安定化が先か、それともバイオ石炭の普及が先か。鉄道の文化と伝統を継承するためにも、安定的なSL向け燃料確保の道が開かれることを期待したい。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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