日本三大仇討ち「曽我事件」巡る謎の陰謀論の真相 北条時政が源頼朝を殺そうとしていた?

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頼朝の在世中、幕府の主要役職に就けなかった時政が、それを不満に思い、曽我兄弟に「頼朝は祖父・伊東祐親の仇だ」と吹き込み、頼朝もろとも討たせようとしたのだという。時致の烏帽子親が時政というのも嫌疑に拍車をかけているように思う。

時政は、頼朝とその子・頼家をも殺害し、千幡(頼朝次男。後の3代将軍・実朝)を擁立しようとしたとの説もある。しかし、それらは推測であり、時政が2人を殺害しようとした動きは見られない。

また、頼家は自分(時政)の娘(政子)の子であり、頼朝の後継者となる身である。この時点で、頼家を殺すことに、メリットはないであろう。

時政は嫌疑や処罰の対象にはなっていない

曽我事件直後、源範頼(頼朝の異母弟)や安田義資(源氏一門の有力者・安田義定の子)などが次々と粛清されているが、時政は嫌疑を受けたり、処罰の対象とはなったりはしていない。このことも、時政が黒幕でなかったこと示す証しではないか。

私は曽我兄弟の仇討ちに闇はないと考えている。多くの御家人が死傷していることをもって「親思いの若者による仇討ちではなかった可能性が高い」とも言われるが、曽我兄弟にしても、むざむざ殺されたくはなかったろうし、頼朝に一言でも恨みごとを言い、死にたかったであろう。

自らを討とうとする武士たちと戦うのは当然の行為であり、そこに裏はないように思う。ただ、いかに雷雨のなかの夜討ちとはいえ、2人でこれほどの数の武士を死傷させた曽我兄弟の武勇に感嘆するだけである。

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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