一歩前進、東急・京急接続「蒲蒲線」何が決まったか 都と区の「費用負担割合」決着、先はまだ長い

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総事業費の試算を基に単純計算すると、区の負担額は約317億円となる。区が熱望してきた路線とはいえ負担が多いようにも見えるが、担当者は「新空港線の整備が『特別区都市計画交付金制度』の対象となるよう都と区で調整するとの内容も合意に盛り込んでいただいているので、実質的な負担割合は7割より減る見込み」といい、この点も協議が決着した要因のようだ。

次のステップは事業主体となる三セクの設立だ。区の担当者は、鉄道事業者などに限らずメリットを感じる企業があれば広く出資を募りたいと話す。ただ、「少しでも早く設立をと考えているが、まだ事業費の精査などが必要」。現時点で打ち出している総事業費は負担割合の検討を主な目的とした試算で、三セクの出資金や資金調達の規模を固めるにはさらに区や都、鉄道事業者などによる調整が必要になるという。

今のところ、開業予定時期は決まっていない。一部で2030年代半ばがメドなどと報じられたが、これはあくまで需要予測のために設定した開業年次といい、「まだ整備主体(三セク)が立ち上がっていない状態なので現時点では未定」(区の担当者)だ。

京急直通、本当にできる?

第1期整備の費用負担割合の根拠となった需要予測では、矢口渡―京急蒲田間の利用者は航空旅客以外が7割を占める。同区間だけでは空港アクセス路線というより、2つの蒲田駅を結ぶ「蒲蒲線」の色彩が強い。現在の想定では、新空港線の地下駅から京急蒲田駅への乗り換え時間は約6分20秒かかる。京急蒲田から先の第2期整備をどう進めるかは今後の大きな課題だ。

京急蒲田駅。新空港線の駅は地下に設けられる予定だ(記者撮影)

今回の合意には、「京急蒲田から大鳥居までの整備について、東京都と大田区は、引き続き実現に向けた関係者による協議・調整を行う」との内容も含まれる。

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ただ、東急線と京急線は軌間が異なるため、そのままでは直通できない。区は異なる軌間を直通できる「フリーゲージトレイン」や、レールを3本敷設して両線の列車を走行可能にする3線軌条などあらゆる方法を検討するとしている。

区の担当者は「決して第1期区間が完成しないと取りかかれないということはなく、条件が整えば第1期の整備中に第2期区間も進めていきたい」と話すが、技術的なハードルは高い。

費用負担割合という懸案を解決し、実現へ一歩前進した新空港線。ただ、現状ではあくまで第1期の整備に向けた課題の1つを乗り越えた段階で、事業化が決定したわけでもない。「大きな一歩を踏み出した」とはいえ、この先の道のりはまだまだ長そうだ。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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