就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛

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ここからは私自身の意見を交えて展開したい。「ガクチカ」というものに事実上、大学も侵食されていることについて警鐘を乱打したい。大学は何のためのものなのか。

若者に旧来の若者らしさを求めるな

この手の話をするたびに「いや、大学は自分でやりたいことを探す場所だろう」「ガクチカとして誇れるものがないのは自己責任」などという話が飛び出したりする。中には「俺は、苦学生だったが、アルバイトで学費をすべて払い、サークルの立ち上げまでして、充実した大学生活をおくったぞ」などという、マウンティング、ドヤリングが始まったりする。さらには「どうせ学生は、遊んでばかり」というような学生批判まで始まったりする。

いい加減にしてほしい。どれも現実離れしている意見である。構造的に、時間もお金もないことが課題となる中、それを強いることは脅迫でしかない。自分の体験の一般化は、持論であって、理論ではない。さらに、自分の時代の、しかもドラマや漫画などで妄想が拡大され美化された大学生活を前提に語られても意味はない。

これは言わば、妄想ともいえる「若者らしさ」の押し付けでしかない。自分たちが思い描く若者像を、過剰なまでに期待していないか。

そもそも、ガクチカなるものを今の大学生に期待することがいかにエゴであるか、確認しておきたい。大人たちには学生が、自分たちが理想とする学生生活を送れるように応援する気持ちを持ってもらいたいものだ。学生像を押し付けてはいけない。

企業の面接官には、学生1人ひとりをしっかり見てもらいたい。コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である。

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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