明子さんは反省モードだが、仕方のないことだと僕は思う。多くの男性にとって仕事はアイデンティティと直結しているので、同い年の彼女に「会社を辞めたい」などと弱音を吐くことは難しい。その彼女が生き生きと仕事に取り組んでいたらなおさらだ。責任ある立場でバリバリ働くことを志向しているカップルの場合、ふたりとも仕事が安定している時期に結婚するのが理想ではあるが、それは希有なタイミングなのかもしれない。
33歳で「本気の婚活」突入
失恋の打撃を3年ほどは引きずったという明子さん。33歳になったとき「このまま独りじゃいけない。結婚したい!」と強く思ったという。1年前、4歳下の妹が「お姉ちゃんのようにはならない」とさっさと結婚した現実も背中を押してくれた。
「結婚してもしなくてもいいという態度では誰も動いてくれませんが、本気で結婚したいことを示すと、ちゃんと相手を紹介してくれる人が出てくることを知りました。本気って大事なのだと思います」
月にひとりのペースで10人以上の人とお見合いをした。明子さんによれば、地元志向の強い愛知県では大学よりも中学・高校の学校名が重要であり、進学校出身の明子さんは同じ高校の先輩たちを紹介されることが多かったという。
「お会いしたのは大企業勤務のエリートがほとんどでした。40歳前後の男性からは真剣に結婚したいという意思が伝わってきましたね。まだ若かったのでお断りされることはなかったのですが、私は初対面で『恋愛対象じゃない』と感じると先に進めなくなってしまう人間なので……。見た目ではなく、全体的な雰囲気が大事です」
あきらめずに婚活を続けていると、職場の上司が手を差し伸べてくれた。会社員をしている親戚を紹介してくれるというのだ。それが今の夫である山口真一さん(仮名、48歳)だ。音楽が大好きでレコード店を開けるほどCDやレコードを集めている真一さんには、文化的なものが好きな明子さんも心の中でOKサインを出した。しかし、真一さんから意外な言葉が出た。
「僕は(人を好きになるまで)時間がかかる、結婚に焦っているなら別の方とどうぞ、と言うのです。彼とは1年間もご飯を食べるだけの友だちでした。だから、別の人とのお見合いも続けていましたよ」
友だちとはいえ月に2、3回は食事に行く仲だ。遊んでいる時間はないと判断した明子さんは1年後に真一さんに決断を迫った。「このままではどうにもならない。もう会わないことにしましょうか」と。すると真一さんは「じゃあ付き合いましょう」との答え。去る者は追いたくなるという典型的な心理だが、真一さんが独特なのはそのまますぐに結婚に至らなかったことだ。
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