今の日本で「ナチス映画」が大量に公開される背景 関連作品は月1本のペースで封切られている

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ユダヤ人差別の根源をたどれば、2000年に及ぶキリスト教とユダヤ教の相克に始まる歴史が背景にあり、専門の学者でも容易に答えられない問題だと思う。

しかし確かなことは、ドイツ第三帝国が国家をあげて組織的にこれを行なったことだ。

そしてそれはナチスの高官だけでできるはずもなく、SS(親衛隊)とゲシュタポ(秘密警察)、アインザッツグルッペン(行動部隊)といった暴力集団がこれを実施し、国防軍はもちろん、ナチ党員、国家や地方の官吏、鉄道関係者、看守等も多かれ少なかれ加担していたということである。

この間、ドイツ市民が強制収容所でのユダヤ人虐殺の実態をどの程度知っていたかについての議論はあるが、少なくとも広義の意味でのユダヤ人迫害を黙認していたことは間違いない。また、ドイツに限らず欧州各国にナチスに協力した人々がいたことも事実である。

ところでヒトラー・ナチス映画の舞台は、西はフランス・スペイン国境ピレネー山脈から東はロシア西部までおよそ4000㎞に及ぶ、歴史的にも近しい素地を持つ「地続き」の大陸である。したがって同一平面・空間上に枢軸国と連合国兵士はもちろん、迫害の主犯たるナチスと、その対象となった各国在住のユダヤ人、ロマ、障がいを持つ人、性的マイノリティ、共産主義・自由主義者、聖職者等と、迫害に加担、黙認していたドイツと各国の市民たちが「例外なく入り混じって」物語は展開されることになる。

こうして必然的に、その作品がどこの国の製作で、主たるテーマが何であったとしても、比重の差はあるにしても、観る人はこれらを被害者と加害者の両方の視点で鑑賞せざるを得なくなる。

物語の主要人物がホロコーストの直接的な被害者・加害者でなくこれを傍観していた一般市民であったとしても、いやだからこそそうした作品は、ヒトラー・ナチスのような排他的で非人間的な個人・集団に絶対権力を与えることの恐ろしさ、国民は彼らに命じられるまま隣国を侵し、罪のない人を苦しめ、他国と自国の多くの命を奪うことになるという教訓と、同じ過ちを繰り返さないことこそが先人への責務であると伝えてくれるのである。

優れた作品にある普遍的な価値

ここで大事なことは、こうした映画はそれを観る人がドイツ人でもアメリカ人でも日本人でも誰であっても、優れた作品であればあるほど、命の尊さ、平和と人間の平等を訴える普遍的な価値を持つということである。

ヒトラー・ナチス関連映画は2010年代に一段と増えたが、2015年は第二次大戦の終結から70年の節目の年に当たった。このことを記念して製作された作品は無論多いが、さらにその背景として二つの要素をあげておきたい。

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70年といえば、終戦時20歳の青年が90歳の齢を迎える年月である。映画の題材となる史実と何等か関係した人物が亡くなり敬遠されがちだったテーマを描くことが可能になったこと、同じくタブーとされた生身の人間としてヒトラーを描く手法の出現や、収容所でのリアルな残虐シーンや戦闘シーンに変化が見られるのも、時間の流れの中では当然だと言える。

次にこうした映画作品の増加の背景には、近年の欧米をはじめ世界各国、日本における保守、右翼、排外主義的勢力の伸長と、これらに対するリベラルな思想を持つ人々の危惧、反発といった一面もあると思う。

このような視点からも、過去から現在までのヒトラー・ナチス映画を振り返ることの今日的意義はあるはずだ。

馬庭 教二 文芸カルチャー誌エグゼクティブプロデューサー

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まにわ きょうじ / Kyoji Maniwa

1959年島根県生まれ。大学卒業後、児童書・歴史書出版社勤務の後、角
川書店(現KADOKAWA)入社。「ザテレビジョン」「関西ウォーカー」
「月刊フィーチャー」等情報誌、文芸カルチャー誌編集長を歴任。雑誌
局長を経て、現在、エグゼクティブプロデューサー。著書に『1970年
代のプログレ ―5大バンドの素晴らしき世界』(小社刊)がある。

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