インフレは一時的と主張する「一過性チーム」は、その見方が正しいと証明されるという希望を捨てていない。
このレッテルは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を背景とする物価上昇は一過性で終わるとの見方を示したパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長らにもかつて貼られた。しかし世界中で物価が急上昇する現局面において、論旨が正しいとするには基本的に無理がある。
パウエル議長「一過性」の表現撤回-早期利上げの可能性に道開く
それでも、インフレの衝撃は間もなく和らぐと引き続き主張するエコノミストらは残る。供給ショックが緩和され、エネルギーコストが安定するとみるためだ。彼らの一部は、物価上昇圧力がピークを付ける兆候を示す中で中央銀行が積極的過ぎる利上げを通じて大きな過ちを犯す危険性を警告する。以下に一過性チームの主張の幾つかを挙げる。
引き締めし過ぎ?
中銀は自国・地域の経済がソフトランディングできるペースで政策金利を引き上げられると主張するが、懐疑派は引き締め過ぎによってリセッション(景気後退)を引き起こし、結果的にインフレ率も目標を再び下回る公算が大きいと指摘する。
そのリスクは歴史が示している。欧州中央銀行(ECB)は2011年に利上げしたが、同年中に利下げに追い込まれた。日本銀行も06年に政策金利を引き上げたが、08年にその解消を迫られた。
国際金融協会(IIF)のチーフエコノミスト、ロビン・ブルックス氏は「世界的リセッションはやってくる」として、ユーロ圏の消費者信頼感が20年前半に記録した低水準付近に戻っているほか、中国の4-6月期の国内総生産(GDP)がマイナス成長になると予想、米住宅金利上昇で住宅相場が急激に冷え込むとみている。
在庫過剰か
小売業者はサプライチェーン混乱の中で、需要を確実に満たせるよう在庫を積み上げてきたが、利上げで消費者が慎重姿勢を強めている兆しがあり、商品が積み上がり、これが価格に押し下げ圧力を加える可能性がある。ブルームバーグが5月下旬に決算発表した企業のデータをまとめたところによると、S&P消費関連指数銘柄で時価総額10億ドル(約1306億円)以上の企業の在庫は448億ドル(26%)増えた。
アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッド氏はサプライチェーンの問題は企業による過剰注文で引き起こされた可能性があるとして、パウエル議長を含む米金融当局者らが長期的な検証も行うよう期待を寄せている。
住宅相場冷え込み
パンデミックの間は多くの国で住宅価格が急上昇したが、中銀が政策金利を過去最低に引き下げ量的緩和を通じて経済に流動性を供給したことが一因だ。その後、借り入れコストが上がり始め、今は住宅相場に冷え込みの兆しが見える。国際決済銀行(BIS)によれば、実質住宅価格の世界的な伸び率は21年10-12月期に年率4.6%と、同年7-9月期の5.4%を下回った。実質的な相場は世界的金融危機直後の平均を27%上回っていると推定され、調整余地が十分あることが示唆される。
中国の影響
中国の減速はゼロコロナ政策の新たな制限措置が一部引き起こした側面もあるが、世界経済全体の需要に対してはデフレショックとなる。それは商品価格に顕著に表れそうだ。ブルームバーグ・エコノミクスの試算によると、中国の工業生産が1ポイント減速すると、世界の石油価格は最大5ポイント下がる可能性がある。同国は世界最大の鉄鉱石購入国であり、20年には世界の銅需要の40%、ニッケルと亜鉛、スズの最大30%を占めた。
日本の例
日本は長期デフレ経験国として世界的リーダーであり、期待されたインフレ回復を維持できない多数の局面を経てきた。消費者物価指数は最近、日本銀行が物価安定目標に掲げている2%に到達したが、今回は以前と違うのかを判断するには時期尚早だ。物価上昇は最近のエネルギー価格高騰が主因で、賃金の上昇は限られているため消費者はなお神経質だ。日銀は現在のインフレ高進は一時的なものであるとの見方から、引き続き経済支援に取り組んでいる。
原題:
Team Transitory Is Back Warning Big Rate Hikes Are a Big Mistake(抜粋)
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著者:野原良明、Enda Curran
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