「SDGsの大嘘」にほとんどの一般人が騙されるワケ 誰も反対できない17のお題目に潜む「矛盾」

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また、「海の豊かさを守ろう」なんていうのも現実的ではない。これはあんまり魚をとらないほうがいいって話になるけれど、現実は世界の漁獲高はすさまじい勢いで増大していて、このままいくと、あるときにまったく水産資源がとれないという事態が起きる恐れもあるが、今はそれを止めるルールもない。しかも、それを規制して漁獲量を減らしたら、「飢餓をゼロに」とか、「貧困をなくそう」という目標は達成できない。

素晴らしい話をどれだけ語られても、それがまったく実現できないおとぎ話ならば、それは「嘘」と変わらない。私がSDGsは嘘だという理由はここにある。

「人口を減らそう」という目標の欠落

そこに加えて、このSDGsというものが胡散臭いのは、17もの目標を並べているわりには、地球の持続可能性を考えるうえで、およそ欠かすことのできない目標が含まれておらず、その解決策にもまったく言及していないことだ。

それは人口問題である。

世界の人口は20世紀初頭には約16億5000万人だったが、この100年で爆発的に増えて現在は79億人まで膨れ上がっている。長期的には減少に転じるという話もあるが、発展途上国も多いので、しばらくは増え続けていくだろう。

この人口増加を抑えないで、SDGsが掲げる「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロに」「6.安全な水とトイレを世界中に」「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「13.気候変動に具体的な対策を」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」という目標を徹底的に追求していくと、人類は間違いなく〝地獄〟へ直行していく。

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まず、原生林や原野といった自然生態系が消滅するだろう。そして、野生動植物の生物多様性が激減し、それでも間に合わないと、結局は個人間や国家間での、エネルギーや食料、水などのリソースの奪い合いが始まって、もはやSDGsどころの騒ぎではない「資源争奪戦争」がスタートする。

これを回避する究極の方途はただひとつしかない。SDGsふうに気取ったかたちでいえば、「みんなで協力して人口を減らそう」。

「人を減らせ」などと言うと、何やら過激で危険な思想の持ち主であるかのような誤解を与えるかもしれないが、人を殺そうという話ではなく、世界規模で出生率を下げようという話だ。科学的な視点で今の地球と人類の状況をみれば、エネルギーや食料、水などのリソースを、人や野生生物を含めた全世界の生物たちにどのように分配するかということが喫緊の課題になっているというのは明らかである。

エネルギーや食料、水などの資源の「上限」はすでに決まっていて、人を含めた地球上のすべての生物は、それをシェアして生きているにすぎないからだ。

池田 清彦 生物学者

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いけだ きよひこ / Kiyohiko Ikeda

1947年、東京都生まれ。生物学者。東京教育大学理学部生物学科卒業、東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、理学博士。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、山梨大学名誉教授、早稲田大学名誉教授、TAKAO599MUSEUM名誉館長。カミキリムシの収集家としても知られる。『環境問題のウソ』(筑摩書房)、『ほんとうの環境白書』(角川学芸出版)、『本当のことを言ってはいけない』(KADOKAWA)、『自粛バカ』(宝島社)など著書多数。メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』、VoicyとYouTubeで『池田清彦の森羅万象』を好評配信中。

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