日本の食料自給率向上を「米国が絶対許さない」訳 米国にとって日本は「食料植民地」となっている

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幻に終わったアメリカとのTPP交渉にも、農産品の聖域を設けた。それでも牛・豚肉の関税は時間をかけて下げていくことで合意したはずだった。それをTPPからの離脱を宣言したトランプ政権が、日米貿2国間易交渉の末に結んだ「日米物品貿易協定(TAG)」に継承させている。

そのトランプ政権下で米中貿易戦争が勃発すると、中国がアメリカの農産品に報復関税をかけて買い取りを拒むようになった。それを引き受けたのも日本だった。中国に向かうはずが、売れ残って余剰となったトウモロコシ約250万トンを当時の安倍政権が買い取っている。

アメリカの農業にとって日本は欠くことのできない、そして便利な市場なのだ。そんな市場を手放すはずがない。

「Can you imagine a country that was unable to grow enough food to feed the people? It would be a nation that would be subject to international pressure. It would be a nation at risk.」

(君たちは、国民に十分な食料を生産自給できない国を想像できるかい? そんな国は、国際的な圧力をかけられている国だ。危険にさらされている国だ)

2001年7月27日、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ホワイトハウスでNational Future Farmers of America Organization(アメリカの未来の農業者を支援する国立機関)の若い会員に向けた演説でそう述べた。

日本はアメリカの“食の傘”の下にある

ウクライナ侵攻と同時にプーチン大統領は核兵器の使用も示唆する発言をして物議を醸した。そこであらためて日本はアメリカの“核の傘”の下にあることを認識した。同じように日本はアメリカの“食の傘”の下にある。そのことをアメリカはよく知っている。

ウクライナ侵攻をめぐって日本はアメリカと足並みを揃えた。それは理念ばかりではなく、そうせざるをえない事情もあるからだ。食料供給によって相手国を従わせる。自給率の低下と食料依存体制の強化で、相手国を骨抜きにする。それが重要な市場でもあり、かつての植民地のように機能する構図。

もっとも、これをアメリカや日本政府は「日米同盟」と呼んでいる。だが、私はずっと日本はアメリカにとっての「食料植民地」であると言い続けてきた。だから、岸田首相もあの日以来、自給率については言及していないはずだ。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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