米中のアジア陣取り合戦で見えた国際秩序の変化 居丈高な脅し通らず、外交力が試される時代に

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ASEAN諸国に参加を呼びかけたIPEFも一筋縄では行かなかった。ASEAN加盟10カ国の多くは、米中いずれか一方に偏らず、どっちつかずの政策によって生き残るというのが基本的な考え方だ。いずれかに与してしまえばもう一方の大国との関係が壊れ、結果的に苦しい状況に追い込まれかねないと考えている。中小国家に典型的な無難な対外政策だ。

ところがバイデン政権には、「軍政国家など非民主国家は仲間から排除する」というアメリカ的な上から目線の説教臭い発想が残っている。昨年12月にワシントンで開かれた「民主主義サミット」などはその典型だった。タイなど軍部が権力を握る国家を排除した結果、ASEANで招待したのはわずか3カ国だけだった。これでは中国を利するだけである。

日本側の提案でより多くの国の参加が実現

IPEF参加呼びかけにおいても、アメリカの姿勢は変わらず、当初はタイなどを外そうとしていた。これに対し日本政府はIPEFを対中戦略の一環と位置づけるのであれば、より多くのASEAN国家の参加が重要だから、すべてに声をかけるべきだと主張した。

これを受けてアメリカは外遊直前にアメリカとASEANの特別首脳会談を開き、参加を呼びかけた。その結果、IPEFには軍事クーデターによってASEAN内でも孤立しているミャンマーと親中姿勢を隠さないラオス、カンボジアを除く7カ国が参加することになった。

国家の規模や発展状況、政治体制などが大きく異なる国で構成されるアジアで、NATOのような強い結束力を持つ国家集団を作ることは不可能に近い。ましてアメリカの力が衰退している今はなおさらのことだ。だからと言って中国とアメリカの対立激化を黙って見ていたのでは、地域の平和と安定が両大国によって脅かされかねない。

必ずしも安全保障を前面に出さず、多様なテーマを扱う緩やかな国家グループが重層的に作られ、何か問題が起きた時はこうしたグループが集まって対処する。アメリカが衰退期を迎え国際秩序が変動し始めた21世紀の新たな「同盟関係」の姿なのであろう。もちろんこうしたグループが今後、どう発展するのかその見通しも不明である。

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