歪んだ権力構造、「暗い繊細さ」で回るロシア社会 『ロシア点描』著者、小泉悠氏に聞く

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小泉 悠(こいずみ・ゆう)/東京大学先端科学技術研究センター専任講師。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。外務省専門分析員、未来工学研究所客員研究員、東京大学特任助教などを経て、2022年から現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。ほかに『現代ロシアの軍事戦略』『「帝国」ロシアの地政学』など著書多数。(撮影:今井康一)
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月。プーチンのような怪物がなぜロシア社会から生まれたのか。その社会を形づくる人々とは。執筆終盤で戦争が勃発、急きょ構成を変更し書き上げた。
ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(小泉 悠 著/PHP研究所/1760円/185ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──冒頭でロシアについて、不信と信頼が同居する国、ロシア人はとくにロシア人を信用しない、と。

社会の中にものすごい不信が渦巻いてる国だと思います。自分は他人を信用せずに行動する、それは向こうも同じはず、という見方をする。旅行で来たロシア人が日本人に親切にされると、彼らはすごく警戒します。「どういう意味だ」と。ロシアの公的制度やシステムに対する信頼の薄さが根本にあって、つねに身構える。信頼できるのは身内だけだから、身内に対しては逆にトコトン甘い。自分の身は自分で守り、身内で結束し、他人は出し抜こうとする社会。そんな印象を僕は強く持っています。

──不信感はいつの時代から?

共産主義以前に、帝国のまま近代に突入してしまったロシアの宿痾(しゅくあ)ではないですかね。ある程度回っていたソ連の仕組みは1990年代に崩壊し、万人の闘争状態に突入した。巨額の賄賂を払える人やマフィアが好き勝手する社会。プーチン政権下で公的制度が回り始め改善したとはいえ、相互不信を解消できずここまで来ている。

問題が起こると正攻法より裏技で解決しようとする。この場合は誰に電話しどう話せばいいか、心得ている人たちがいる。ただし賄賂も、使える人と使えない人がいます。頂点に賄賂を取るやつ、次に賄賂を上手に贈れる人、そして賄賂を贈ることさえできない人といういびつな権力構造。誰にどんな状況で渡せばいいか、信頼できる仲介者は誰かを機敏に察し、つねに知っておかないといけない。

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