
週末はこのいでたちに三菱農機(現三菱マヒンドラ農機、本社、松江市)のキャップをかぶり農場へ(撮影:梅谷秀司)
神門善久(ごうど・よしひさ)/明治学院大学教授。1962年島根県松江市生まれ。独自のネットワークを駆使して農業の研究を続ける。外国人労働者にも関心。著書に『日本の食と農』(サントリー学芸賞、日経BP・BizTech図書賞受賞)『日本農業への正しい絶望法』『さよならニッポン農業』など。
家畜や作物の生育状況を把握できないまま硬直的に農作業をし、農産物の出来の悪さを宣伝・加工で糊塗するという傲慢な農業が目立つ。全国の農場へ赴き、観察し、話を聞いて編んだ令和日本農業の黙示録。あまたの事例から何をくみ取るべきか。
──週末はその格好で現場へ。
はい。ただ、現場主義という言葉は嫌いです。自説に執着したままアリバイ的に農場に行っても、虚構が肥大するだけ。また、「私は現場主義ではない」という人を見たことがない。要は無意味な言葉。
主役である作物や家畜の声を聴けない人がいくら現場に行っても無駄。むしろ有害です。声が聴けないと、自分の仮説に、現場で見た都合のいい事実を当てはめる。ストーリーを作るときって、合わない情報は捨てますよね。だけど、そこに重要な情報があったりする。「知る」=「知らなくなる」という怖さをわきまえるべきです。
農業の基本がおろそかに
──「農業をめぐる3つの罠(わな)」の1つに「識者の罠」があります。
作物や家畜のことがわからなくても「識者」らしく振る舞おうとしてひねり出すのがスローガン。ブランド化とか6次産業化とか。農産物の輸出振興なんて聞くと、輸出の危険性をどこまでわかっているのかと思います。農産物は工業製品のように規格化されてはいないうえ、鮮度管理に失敗したり、動植物検疫でもめたりと、トラブルが多い。しかも、国際政治や風評など、出荷者に責任のないことで貿易が急に止まって、破産することもあります。
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