建設労働者の処遇改善が一向に進まないワケ 10年がかりで取り組むプロジェクトの弱点
「職人不足の深刻化で、外国人の不法就労が増えているようだ」(大手ゼネコン幹部)との指摘もある。4月から始まる外国人技能労働者の受け入れを円滑に運用するためにも、ITを使って本人確認ができる仕組みは必要だろう。
建設業界では、10年前からこのシステムの開発・実証実験が繰り返し行なわれ、すでに完成済みだが、実はいまだに本格運用が始まっていない。表向きはシステム費用負担などがネックと言われるが、重層下請け構造のもとで労務費の流れを透明化したくないとの思惑も働いているようだ。
復興工事で一部導入も…
開発がスタートしたのは2004年。大手ゼネコン5社の技術研究所で、共同研究に着手。国の助成金で実証実験を何度も繰り返し、有効性を確認してきた。
2011年の東日本大震災後の復興工事では、国からの被災地支援の要請でシステム運用機関として、「一般社団法人就労履歴登録機構」(代表理事・蟹澤宏剛芝浦工業大学教授、野城智也東京大学教授)を設立。福島市での除染作業員の被ばく量管理ツールとしてシステムを提供することになった。
「福島市には、全国からさまざまな作業員が来て民家の屋根や周辺で作業をするため、作業員の本人確認が住民の安心にもつながると期待されていた」(機構事務局)
普段は顔見知りの地元の労働者ばかりのところに、全国から労働者が集まるとなれば、福島市の担当者の心配も当然だ。5年ほど前に英国人女性を殺害した容疑者が、建設現場を渡り歩き2年以上逃亡して逮捕された事件を記憶している人も多いだろう。
しかし、2013年春からの本格運用直前に補助金は打ち切りになり、システムはストップした。国の担当者は「もともと2012年度単年の事業だった」と言い張るのだが、国が要請しておいてハシゴを外すのは何とも不可解と言える。機構は「事務局経費を賄うために理事でサラ金からの借金も考えた」と後始末に追われた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら