「プーチンの本性」を見破れなかった西側の誤算 歴史家が恐れる世界が「大惨事」へと至る筋書き

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当然ながら、歴史の中では万事がランダムであるわけではない。ロシアによるウクライナの侵略は、年頭には予見するのは難しくなかった。

ロシア人とウクライナ人は単一の民族である、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)あるいは欧州連合(EU)に加わろうとすればレッドラインを踏み越えたことになる、とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主張したとき、その言葉を文字どおりに、かつ真剣に受け止め、経済制裁を行うぞと脅しても彼を思いとどまらせることはできないと気づきさえすればよかったのだから。

では、現時点(2022年3月)で予見できないのは何かと言えば、それは、この戦争がどういうかたちで終わりを迎えるか、言い換えれば、これがけっきょくどれほど大きな惨事になるか、だ。

その答えがわかっていると、固く信じている人々もいる。ドイツではオラフ・ショルツ首相が「Zeitenwende(文字どおりの意味は「時代の転換」)」に言及した。「今後の世界は、もはや従来の世界と同じではない」と彼は断じた。

西側が抱き続けた誤ったプーチン像

ある明白な意味で、彼は紛れもなく正しい。ドイツは1960年代後半のヴィリー・ブラント首相による「東方政策(オストポリティーク)」を手始めに、私の人生の大半を通じて、ロシアに対して「貿易を介しての変化(Wandel durch Handel)」という政策を実行してきた。

ショルツの前任者であるアンゲラ・メルケルは、ヨーロッパをロシアの天然ガスと石油に依存させるのは理に適っているとさえ考えていた。だが、そのいっさいが過去のものとなった。

プーチンはずっと以前から人殺しの戦争屋であり、彼による主権国家の侵略は2012年以来、これで四度目だ。

それにもかかわらず、彼が起こしたこれまでの戦争は今回のものよりも規模が小さかったため、どういうわけか、彼は西側諸国が取引を行うことができる相手だという妄想がしぶとく生き延びるのを許してしまった。

だが、包囲されたマリウポリに集団墓地が設けられ、ハルキウ(ハリコフ)市街がおおかた瓦礫と化し、何百万もの避難民が西に向かって脱出している現実を前にしては、プーチンが人殺しの戦争屋であることは、もはや否定のしようがない。

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