戦争やパンデミックが「予測不可能」である理由 歴史家がカオス理論から読み解く「大惨事」

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問題は、それらの説の信奉者、あるいは広く理解されていない見識の信奉者が、凶事の予言者カッサンドラの立場に必ず立たされてしまう点にある。

彼らは未来が見える、あるいは、見えるように思っているが、周囲の人々を納得させることができない。その意味では、多くの災害は真の悲劇、典型的なギリシア悲劇だ。悲運の予言者は、疑い深いコロス(合唱隊)を説得することができない。王は破滅を免れられない。

だが、カッサンドラたちが周りを説得できないことには、もっともな理由がある。彼らは自分の予言を厳密なものにできないのだ。惨事は正確にはいつ襲ってくるのか? カッサンドラはたいてい特定できない。惨事のうちには、大地を揺るがしながらこちらを目がけて突進してくる「灰色のサイ」のように、「予測可能な不意討ち」もある。

冪乗則が支配する「ブラック・スワン」

とはいえ、これらの灰色のサイたちは、襲いかかる瞬間に「ブラック・スワン」、すなわち「誰にも予見しえなかっただろう」、見たところ人を困惑させる出来事に変身することがある。

それは1つには、パンデミックや地震、戦争、金融危機といった多くのブラック・スワン事象が、私たちの脳に理解しやすい種類の確率の正規分布ではなく冪乗則に支配されているからだ。

平均的なパンデミックや地震などというものはない。少数の非常に大規模なものと、じつに多数の非常に小規模なものがあり、非常に大規模なものがいつやって来るかを確実に予測する方法はない。

平時には、私の一家はサンアンドレアス断層線から遠くない場所で暮らしている。大地震がいつ起こってもおかしくないことは承知しているが、それがどれほど大きく、正確にはいつになるのかは、誰にもわからない。

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