本を出したい人の大半が「出せないまま終わる」訳 企画と人脈で出版は可能だが行動する人は少数

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加藤:加藤も他人の本をまとめたことがありますが、それで全然いいと思う。「著者である」ことと「自分がキーボードを叩く」ことは別でいいと思います。逆に言えばさ、ライターさんは文章は書けるけど、ネタを持っていないんだから。

「ゴーストライターはダメだ」みたいな風潮が、まだ少しあるよね。小説とかはさすがにダメだろうけど、ビジネス書だったら全然それでいいと思うけどな。実際のところライターさんはどう思っているのか、『仕事人生あんちょこ辞典』の構成を担当している甲斐荘秀生さんに聞いてみましょう。

「100分話せること」は十分1冊の本になる

甲斐荘:そうですね。私たちの仕事はよく「ゴーストライター」みたいに言われるんですが、「ゴースト」はドイツ語ではガイスト(Geist)になりますよね。ガイストには「精神」という意味があるので、最近は「著者の精神を文字に写し取る仕事」だと胸を張って言っています。

加藤:ライターと著者とは別のもので、著者にしかできないことがありますよね。

甲斐荘:もちろんです。著者の方が培ってきた経験や思索があるからこそ本ができるわけなので、そこに敬意をもってライティングに臨んでいます。これまで培ってきたものを世に問うって大変な決意ですから、それだけで敬意の対象です。

加藤:それで言うとさ、よくある本のページ数は200ページくらい。原稿としてワープロ文章だとA4サイズで100ページぐらいのボリュームです。一方、普通のスピードで話しているのをテープ起こしすると、1分間でA4の1ページぐらいになる。ということは、100分話せたらだいたい1冊分になるわけですよ。

『仕事人生あんちょこ辞典: 50歳の誤算で見えた「ブレイクスルーの裏技45」』(ベストセラーズ)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

角田:たかだか100分なんだね。

加藤:このご質問者の方も、15年間気合いを入れて取り組んできたことなら、2時間は話せますよね? それを編集者さんが「なるほどこれは本になる」と思ってもらえるなら、実は著者になれるコンテンツを十分お持ちなんだと思います。自分で書けなくっても、後はライターの人に整えてもらえばいいわけで。

角田:確かにそうだよね。2時間なら話せるよ。

加藤:ビジネスパーソンの方はスライド的な資料でプレゼンすることにも慣れているだろうけど、あの手の資料も大体1枚につき1分ぐらいの分量になることが多い。だから100枚分の資料が作れたら本になる。しかもその資料は本を作るときの構成案・目次としても使えるわけだよね。

角田:それはいいアドバイスだね。書きたいコンテンツで100分喋るか、100枚のスライドを作れ、ってことだ。

加藤:このアドバイス、少なくとも100人以上に言ってきたんだけど、これまでに実際にやってくれたの、2人ぐらいしかいないんだよね……。

角田:なるほど、2%か。そのうちの半分が本を出せているとしたら、「本を書きたい」と思った人の1%ぐらいが本を出せていることになる。それくらいが実像に近いのかもしれないね。いま加藤君が言ったようなことを「実際にやってみる」ところまで至った人は少なくて、多くの人は手前で諦めてしまっているんだろうね。

本連載では大学生や、若手社会人の皆さんからお悩みを募集しています。仕事、就活、受験、生き方……などなど、角田氏と加藤氏に相談したいことをお書きください。応募はこちらからお願いいたします。また次回のあんちょこ配信は5月20日(金)20時から、こちらのYouTubeチャンネルにて開催です。
角田 陽一郎 バラエティプロデューサー/文化資源学研究者

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かくた よういちろう / Yoichiro Kakuta

バラエティプロデューサー/文化資源学研究者。東京大学文学部西洋史学科卒業後、1994年にTBSテレビ入社。「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」「オトナの!」など主にバラエティ番組の企画制作をしながら、2009年ネット動画配信会社goomoを設立。2016年にTBSを退社。映画『げんげ』監督、音楽フェスティバル開催、アプリ制作、舞台演出など多様なメディアビジネスをプロデュース。現在、東京大学大学院博士課程にて文化資源学を研究中。著書:小説『AP』『最速で身につく世界史/日本史』『なぜ僕らはこんなにも働くのだろうか』他多数。週刊プレイボーイにて映画対談連載中、メルマガDIVERSE配信中。

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加藤 昌治 作家/広告会社勤務

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かとう・まさはる / MASAHARU KATO

作家・広告会社勤務。千葉県立千葉高等学校卒。1994年大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、『チームで考える「アイデア会議」考具応用編』(CCCメディアハウス)、『アイデアはどこからやってくるのか 考具基礎編』(CCCメディアハウス)などがある。

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