「持ち家or賃貸」論争、今この状況における考え方 永遠のテーマを「リスク」を切り口に判断する

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ここで考えたいのが、やはりリスクです。住宅ローンは35年とか長期にわたってかなりの金額を返済し続けなければなりません。20、30代の会社員がローンを組むとき、「60歳くらいまで健康に働ける」「50歳くらいまで給料が増え続ける、少なくとも激減はしない」「まとまった退職金がもらえる」といった前提があります。

しかし、健康を害することなど、いくらでもあります。給料が減ったり、会社が傾いてリストラされるのも、最近では日常茶飯事です。住宅ローンを組むとき、これらの前提が崩れてしまうことを想定する必要があります。

ステップアップ返済は論外

返済が困難になるリスクを考えるなら、ステップアップ返済は論外ですし、元利均等返済もお勧めできません。利息収入を増やしたい金融機関の策略に乗らず、元金均等返済を選択するのが賢明です。

金利には、市場金利に合わせて変動する変動金利と借入時点の金利が続く固定金利があります。たとえば、相談者からよく話題に上るauじぶん銀行の場合、4月25日時点で変動金利が0.41%、固定金利35年が2.44%(全期間引き下げプラン)です。多くの住宅購入者は、金利負担が小さい変動金利に心を動かされるわけですが、これはいかがなものでしょうか。

「将来のことは誰にもわからない」というものの、金利はマイナスにはならないので、今後大きく下がることはありません。一方、1990年頃には変動金利が8%超に達したことを思い起こすと、今後、数%上がってもまったく不思議ではありません。

将来の金利上昇リスクを考えると、固定金利にすべきです。そして、借りるなら金利が最安値圏にある「今でしょ」(古い)という判断になります。

以上をまとめると、「住宅は購入せず賃貸にするべき。どうしても購入するならマンションでなく一戸建てを。ローンを組むなら変動金利・元利均等返済でなく固定金利・元金均等返済で」という結論になります。

もちろん、これは「リスクを最重要視するなら」という前提での話です。人には個別の事情や趣味・嗜好、主義・信条があり、この結論が絶対とは言いません。「タワマンに住むのが俺の夢だ。破産するのを覚悟で買うぞ!」という選択も、大いに結構です。

ただ、不透明感が増すこれからの時代に、リスクが最も重要な判断基準であることを最後に強調しておきたいと思います。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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