加えて、今般のロシアのウクライナ侵攻に直面して顕在化したのは、経済・金融・財政面で脆弱であると安全保障上の支障になる、ということである。侵攻したロシアに対して、先進各国がまずとったことは、経済制裁だった。経済制裁で対抗するということは、それだけ安全保障上でも経済基盤が重要であることを深く認識している証である。
ロシアでは、先進各国の企業が撤退したことで、失業率がかなり高くなっている。金融面でも、ロシアの主要銀行が国際決済網から排除された。そして、財政面では、ロシア国債が事実上デフォルトしたも同然の状態となっている。
安全保障は、軍備だけで成り立つものではなく、経済・金融・財政面での基盤がしっかりしていないと成り立たない。そうした基盤が脆弱だと、必要とされる抑止力や継戦能力を維持することもままならないことを、ウクライナ侵攻で痛感させられた。
だから、わが国の財政状況を度外視してでも防衛費の規模を対GDP比2%にするということでは、わが国の安全保障は成り立たない。そもそも、どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのかといったことも、きちんと検討しなければならない。
規模ありきで防衛力整備を進めると、有効でない防衛装備品を割高な値段で購入することを容易にしてしまう。また、装備品ばかりあっても人員配置も整わなければ、すぐに実用に供することはできない。それでは、国民の生命と財産を効果的に守ることができない。
侵攻しようとする国は、侵攻される国が軍事面だけでなく、経済面でも脆弱である状態を狙ってくる。それは、未然に防がなければならない。
NATO加盟国は国防費増と財政健全化をセットで進めた
だから、NATO加盟国では、2014年以降国防費を増やした時期に、財政健全化にも熱心に取り組んでいた。2014年から2019年までの5年を見てみると、EUに加盟するNATO加盟国20カ国において、財政赤字の対GDP比が3%以下の国は、11カ国から18カ国にまで増えた。また、前掲のスウェーデンは、国防費を対GDP比で2%にするのに合わせて、その財源としてたばこ税・酒税の増税や銀行税の導入を発表している。こうして財政基盤を維持・強化している。
外交によって、国際紛争を未然に防ぐのが最優先されるべきである。しかし、それだけではわが国を取り巻く安全保障上の脅威が払拭できないならば、国民の生命と財産を守るためにどんな防衛力が必要かを考えることが求められる。そのためには、規模ありきの防衛費ではなく、真に効果的な防衛力を整備するために質の高い防衛費とすることが重要である。そして、有事にしっかりと耐えられる経済・金融・財政とするためのマクロ経済運営を、平時から行っていくことが、安全保障上でも不可欠である。
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