渡辺謙、「他人の人生経験は役に立たない」の真意 ドラマ『TOKYO VICE』で見せる新境地
――本作は全編オール日本ロケですが、スタッフはハリウッド最高のスタッフが集結していますよね。渡辺さんは海外作品に多数出演していますが、海外の俳優と日本人俳優との違いはどこにあると思いますか。
そうですね、彼ら(海外の俳優)は、ちょこちょこよく食べます。野菜スティックだとか、スナックとかを。僕は昭和の人間だからかもしれませんが、セットに入ったら水やコーヒーなどの飲み物は口にしますが、ものは食べないという習慣が根づいているので、最初は驚きました。だから彼らを見ていると、「この人たち、結構食べるな」と思ったのですが、気持ちはわかります。(撮影時間が)とんでもなく長いからです。その影響か、ハリウッド作品にはユニオン規定があって、終わった時間から次の撮影まで、12時間空けなければいけないんです。
月曜日は早く始まって、早く終わる。火曜日からは、撮影開始時間が徐々に遅くなっていくんです。1週間のうち2日間は休みなのですが、その前日はフリータイムです。だから、休日前はみんなヘロヘロ。体力をキープするため、合間におなかにたまらない軽食をつまむ。それがハリウッドのスタイルとして定着しているみたいです。
――お仕事の話に戻ります。冒頭で「成功するメソッドはない」と断言されていましたが。
メソッドがあるなら僕も、もっと爆発的に売れているはずなんです。これまでの俳優人生42年間と、今後の10年、20年は、時代の潮流が変わっているでしょう。いかんともしがたいと捉えています。先日、(イギリスの俳優)マイケル・ケイン氏の書籍の推薦文を書いてほしいと頼まれたので、ご著書を拝読したんです。人間と俳優としての基礎が書いてありました。ですが、内容は成功するためのメソッドではない。人に信頼されるためにはどうしたらいいかなどの、ベースが書かれていました。
――人に信頼されるためには、どうしたらいいですか?
時間を守る。要求されたものに対しては全身全霊で応えるとか、基礎的なことが書いてありました。俳優だけではなく、ビジネスパーソンにも当てはまる項目ではないでしょうか。それを続けていれば信頼され、次の仕事へつながっていく。僕の仕事も同じです。
「渡辺謙をキャスティングしておけば、ここまでの仕事は必ずしてもらえるだろう」と期待され、成果を出せば「また一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる。どんな仕事でも、その繰り返しでしかないと思います。
俳優は、オンカメラは素晴らしいけれどオフカメラでは人間性がよろしくないとなると、俳優人生は長続きしません。特殊な作品は別ですが。だから、人としてきちんとしていないと、仕事は継続できないんです。当たり前だけどとても大事なことばかり書かれていて、感銘を受けました。一度、読んでみてください。御社の読者層にもフィットする内容ばかり書かれているので。
俳優をやめたいと思った『下谷万年町物語』
――ぜひ拝読します。ところで渡辺さんは、俳優をやめたいと思ったことはありますか?
一度だけあります。『下谷万年町物語(1981年公開、演出:蜷川幸雄氏)』の舞台に出演したときです。当時、僕は22歳。駆け出しでそれまで研究生(演劇集団・円)で3日間の公演しか経験がないのに、西武劇場(現PARCO劇場)で、25日連続公演が決まったんです。
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