社員が「DXで疲弊」する会社にありがちな3大失敗 DX人材が育てばDXが成功するわけではない

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3番目のケースが、企業のDX推進担当者が「DXが実現するかどうかは、人材育成がうまく進むか否かにかかっている」と豪語してしまうケースです。確かに、DXを推進し、機能させていくには、データサイエンティストやビジネスプロデューサーなど、新たなスキルと視点を持った人材が必要です。

ただ、上記のような発言は目的と手段がごっちゃになっているように思います。DXの本来の目的は、トランスフォーメーションのための戦略や企画を実現させることであって、そのためにスキルを備えた人材が必要だ、というのであればわかります。つまり、DX人材が育成できたからDXができるのではなく、DXを浸透・実践させるために育成が必要なのです。人材育成がDXの目的化してしまうこうしたケースからは、精神論を振りかざす前時代的な空気さえ感じられます。

このケースの場合、研修を受ける側の社員は大変です。研修の目的も、学んだ内容をどこでどう生かすのかも不明瞭な中、長い時間をかけて多くのコースを学ばせられるのですから。モチベーションの上がらないなんとも残念な研修の空気感が想像できます。

DX成功企業は何が違うのか

では、DX推進を成功させた企業はこうした「失敗例」と何が違うのでしょうか。凡庸な回答になりますが、それはDX推進によって本気で会社を変えていこうという覚悟や意思です。社員は、経営層や推進部門をよく見ています。中期経営計画、IR資料、どんな会議に誰が参加しているか、会議の議事録、または社内報などさまざまな情報から、会社が本気なのかどうか、現場の私たちだけに押し付けているのではないか、同じ痛みを共有する覚悟があるのかどうかを、感じ取っているのです。

社員に本気度を伝えるために有効なのが、小さくてもいいので、具体的な変革事例を作ってしまうことです。1つの例として、DX推進の成功企業としてよく取り上げられる日清食品グループさんの例を紹介しましょう。同社は、「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」をスローガンに既存の複雑化した業務システムを8割以上削減し、メインフレームを撤廃していったそうです。この改革にあたっては、既存のシステムにかけてきたコストの高さや、それに慣れていた社員からの反発など、いろいろな懸念事項があったことでしょう。それにもかかわらず、メスを入れたのだと思います。

さらに、IT部門ではない現場の社員がコードを書かずに業務改善のシステムやアプリを開発できる体制を整えました。会社の本気度合いがうかがえます。このように、まずは本当に変革をやってみせる。すると社員側も「お!会社は本気だ」と感じるわけです。その後でようやく、「じゃあ俺たち社員側もいっちょ取り組むか!」と、現場の変革や学習に取り組むことができるのです。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」――。山本五十六がおっしゃっていたこの言葉は、DX推進においても生きてくるのです。

原 佳弘 人材育成プロデューサー/組織発酵学

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はら よしひろ / Hara Yoshihiro

Brew株式会社 代表取締役。組織発酵学®プロデューサー。1973年生まれ。横浜市立大学卒業。(旧)建設省所管の市場調査機関にて経営企画を担当後、人材育成やマーケティングのコンサルティングの会社へ。大手企業の新商品開発から精鋭営業チームの育成プロジェクトなどに携わる。2014年、Brew(株)設立。専門分野を持った350人以上の講師コンサルタントとパートナーを組み、組織開発やイノベーション人材育成サービスを提供している。著書に「研修・セミナー講師が企業・研修会社から選ばれる力(同文館出版)」がある。

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