これまでどちらかというと、アートネイチャーは海外進出では遅れを取っていた。同社にとっての主な顧客は40代以上の中高年層。少子高齢化で日本国内の客層は今後ますます増えるだろうとの見通しも、その一因だったかもしれない。
だが、国内のマーケットは期待ほど伸びず、成長著しい新興国への積極進出に舵を切ることになったのだ。
シンガポール法人の田井英幹社長はシンガポールの戦略性を解説してみせる。「シンガポールはアジアの中心で情報発信地だ。人口約540万人とマーケットとしては大きくない。だが、ファッションなどトレンドに関する情報が周辺国に伝播していくため影響力は非常に大きい」。ここでの成功が2カ国目への進出の足がかりになるというわけだ。
特に「女性の美に対する意識は日本同様に高く、また南国という環境上の特性から、同社の製品・サービスに対する潜在的な需要、つまり『髪の悩み』は深い」というのが田井社長の読みだ。
女性向けの「ウィッグ」を中心に勝負!
東南アジアは高温多湿だ。四季がない代わりに「hot・hotter・hottest」の3つの季節があると言われるほど。湿気で髪の毛はべたつき、パーマをかけたり、スタイリングに手間と時間をかけても、髪の毛のボリュームは出づらい。
たとえばマレーシアにおいては水質などの問題もあるという。古い水道管を通り、蛇口から出てくる変色した水で毎日の洗髪していると、頭皮への負担となることも。男性にはげが多いとされるのも、これらと関係がある可能性も多分にあるという。
また、ヘアケアに関する啓蒙は、先進国のシンガポールでさえも、日本と比べ進んでいないという。外資系ブランドのシャンプーなど商品は数多く入ってきているのだが、日本のようにどのような成分が頭皮にはよいのかといった深い理解には必ずしも至っていないという。
一方で、日本の製品は幸い、以前から高く評価されており、日系のヘアサロンが増えていることなどから、消費者に高度なヘアケア関連技術を提供できる環境が整いつつある。同社は、ここに「トータルヘアソリューション」の商機を見い出した。
とはいえ、アートネイチャーの知名度は低く、コスト高もあり、シンガポールでの事業は当初容易ではなかった。軌道に乗せるにはどうすればいいのか。アートネイチャーが考え抜いたうえで、アジアで主に展開するのが「女性向けのウィッグ」だ。髪のボリュームを増したり、髪型を変えるために、一時的に着用するかつらのことだ。
実は、地場の企業が提供するウィッグはないわけではない。単価が安いものでは数千円からある。だが、同社の売れ筋製品は既製品でも10万円以上、オーダーメイドになると40万円ほどと非常に高額である。初出店時はもちろん、今でも「どうしてこんな値段なの!?」と来店客から驚かれることもある。
この価格に満足してもらうために、田井社長は「商品の品質」「サービスの質」「ホスピタリティー」の3つを向上しようとしている。
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