近鉄、新たな観光列車で挑む「首都圏攻略」大作戦 京都―奈良―大阪間、知名度向上でJR西に対抗

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2号車のシートはぴったりくっつけたり、間隔を広げたりと、乗客のニーズに応じて動かせることが特徴だ。ただ、「下部に重しがついているため、少しは動かせるが大きくは動かないようにしている」という。急停止時に動いたりすることがないように施した対応だ。

2号車の半個室にはほかにも特徴がある。1、3、4号車よりも窓が大きいのだ。これらの車両の窓のサイズは従来車両と同じ縦75cm、横1.7mだが、2号車は縦1.2m、横2mに広げた。

縦が長くなったことで、座面すれすれまで車窓が広がる。窓を大きくすることによる車両の強度への影響については、「窓と窓の間隔を広げて強度を確保している」(福田課長)という。

販売カウンターも2号車に設置されている。奈良県産品を使ったスイーツやビール、おつまみなどが売られるが、お弁当などの販売は予定されていない。食事をするほど乗車時間が長くないことから見送られた。

「首都圏の人に近鉄を知ってほしい」

京都と奈良の鉄道での移動手段は近鉄とJRの2つがあるが、近鉄のほうが特急を使えば所要時間は短いうえ、近鉄奈良駅なら東大寺や奈良公園や興福寺に近い、大和西大寺駅なら平城宮跡歴史公園に近いといったメリットがある。加えてこの観光列車の登場だ。観光客目線でいえば近鉄の強みはますます盤石なものとなるように見えるが、近鉄サイドではそうは捉えていない。

「首都圏では近鉄を知らない人もいる」。小林課長が東京勤務時代に痛感した。「昔は近鉄バファローズというプロ野球チームを持っていたので近鉄という名前は知っていても、鉄道がどこを走っているか知らない人がいた。今はプロ野球チームを持っていないので、若い人の中には近鉄そのものを知らない人がいる」。関西では知らぬ者がいない近鉄だが、首都圏では事情が違うようだ。

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近鉄の存在を知らない首都圏在住者が奈良に旅行に行く場合、みどりの窓口で切符を買う際にJR奈良線経由で奈良まで買ってしまう人が少なくないのだという。だが、新幹線の京都駅で下車し、中央口の改札を抜けてまず目にするのは近鉄の改札口だ。その向こうには近鉄の列車も見える。京都駅で「近鉄に乗ってみたい」と思っても後の祭りだ。そのため、話題性の高い観光列車を投入することで、「まずは首都圏の人に近鉄の存在を知っていただきたい。そして、近鉄で京都から奈良に行けることを知ってほしい」と小林課長は意気込む。

首都圏でだけではない。コロナ禍が収束すればインバウンドも戻ってくる。彼らが大阪難波から近鉄で奈良に向かう動きも復活するはずだ。その意味で、あをによしは近鉄の知名度を首都圏で、そして世界で高めるという重要な役割を担っていることになる。

4月15日、あをによしの運行初日となる4月29日の座席を発売したところ、第1便から第6便まで全列車の座席が20分で完売した。この人気をどう持続させるか。そのためにも首都圏需要の掘り起こしは不可欠だ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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