全日空は景気回復、JALからの旅客シフト、首都圏空港拡張による需要増とコスト削減で収益性向上の見込み《ムーディーズの業界分析》
国内における安定した競争環境と収益性
国内の航空市場は日本航空(JAL、ムーディーズの格付けなし)との寡占状態であり、今後、競争環境がANAにとってネガティブに変化する可能性は低い、と考えられる。安定した競争環境の国内市場で、ANAは確立された地位を維持しており、低水準ながらも比較的安定した収益を上げてきた。
10年1月の日本航空の破綻以降、ANAは国内市場における市場地位を高めている。ムーディーズは、ANA が国際線事業よりも変動性の少ない国内事業で市場地位を強化し、結果として業績を安定化させていくと見ている。
日本政府への高い公租公課により構造的に高コスト構造になるため、ANAの収益性は世界の競合他社と比較すると低い水準にある。ANAを含む日本の航空会社は、航空機燃料税や空港使用料として、昨年単年で推定2720億円を日本政府へ納めており、これが収益性を低下させている。一方で、公租公課が高いため、国内市場における競争環境が安定化し、緊急時には日本政府から必要に応じた対応を得られる可能性も高くなっている。
国際旅客事業の収益の変動性
ムーディーズは、国内線に比べ国際線旅客事業の事業リスクは高いと考えている。国際旅客事業は競争環境も厳しく、テロの発生、SARS(重症急性呼吸器症候群)やパンデミックなどの流行伝染病、自然災害などによる収益への影響も大きい。国際旅客事業からの収益はANA全体の15%程度にすぎないが、国際旅客事業は国内旅客事業よりも変動性が高く、世界的な景気後退による影響で、同社は10年3月期に多額の営業損失を計上した。
ANA、United Airlines(ユナイテッド航空)、Continental Airlines(コンチネンタル航空)の3社は、共同で実施する太平洋間ネットワークに関する戦略的提携について、米国運輸省よりATI(独占禁止法適用除外)の認可を受けた。この認可により、3社合同で一体化したネットワーク調整、収入管理、販売等が可能となり、ダイヤの重複を避けることで、効率的な運航スケジュールやネットワークの利便性向上により、収益力の上昇につながると考えられる。