しかし就任当時、駅伝の実績がなかった青学では、チームに規律を持たせることすら難しかった。前例にとらわれない原監督は、サラリーマン時代の営業経験を活かして、「自立」に重きを置いた。週、月、年単位で目標設定させ、自ら結果を把握させ、どうすれば良いか考えさせた。
「素人だからこそ、できることもある。固定観念がないから、いろいろなアイデアが浮かぶ」とは原監督の言葉だ。
実は安易に正解を提示せず、選手自身に自立を求める、原監督型の指導者はそう多くない。ビジネス界でも、こうしたすばらしい上司はそう多くはないのは読者の方々も納得なのではないか。いずれにしても、これによって、選手の主体性は大きく高まり、各選手が試行錯誤を繰り返しながら自発的に戦う集団への変貌を遂げていったのだ。
「ワクワク大作戦」ばかりが注目されるが、一方で今季は特に選手たちが「最強への徹底」というテーマを掲げて、取り組んでいたことも見逃せない。この数年、確実に力をつけてきたが、優勝にまでは至らなかった原因を「勝負へのこだわりが足りないから」と分析できていた。
「やりきる覚悟」と「宣言」が大切
最後に、ビジネスに応用できることとして、最も大切に思えることがある。それは、トップ自身の覚悟と宣言だ。
原監督が、自らプレゼンして、監督に就任した際のうたい文句は「5年で出場、7年でシード、10年で優勝争い」だった。期限を明示して達成目標を宣言した。兼業では学生に見透かされるので、安定した生活を捨て退路を断った。宣言した以上、プレッシャーはきつく、結果が出ない時期には話が違う、と廃部の危機もあった。それでも掲げた目標に向けて1歩1歩積み上げてきた成果が11年を経て結実したわけだ。
こうした勝者の分析は、結果論に聞こえるところもあるかもしれない。しかし、われわれは事の重大性をもっと認識すべきである。
監督経験も実績もなかった「素人サラリーマン監督」と「必ずしも有名ではなかった選手たち」がなしとげた今年の総合記録「10時間49分27秒」は、驚異的だ。2位の駒沢大学に10分以上の大差をつけたばかりか、3回前の東洋大学の参考記録も2分以上、上回っているのだから。覚悟と宣言がなければやはり記録の達成はなかったはずだ。
冒頭の報告会で、原監督は祝福に駆け付けた学生にこう語った。
「学生の皆さん、(駅伝チームが成し遂げたように)自分の目標を一つずつ、半歩ずつクリアしていくことで、多少の困難はあるかもしれないが、必ず夢はかなうと思います。自分の夢に向かって努力を続けてください」。
何も解説の必要などない、1年の最初にふさわしい最高の言葉ではないか。
「創りたい組織に見合う人材を集める」「自立を基にした、規律からなる育成」「具体的な数字を挙げて、やりきる宣言」。この原監督の「3点セット」には、組織や、その中で個人が活躍するためのノウハウが凝縮されている。2015年、読者の皆様も、ぜひ参考にしていただきたい。
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