「ザ・デイ・アフター」の悪夢は、まだ続いている 20代オーストリア外相、核兵器リスクを憂う

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人的エラー、技術的欠陥、怠慢、サイバー攻撃などリスクが多すぎて、核兵器は使用されないと信じることなどできない。また十分なフェイルセーフ機構が組み込まれていると信じるに足る理由もない。1945年以来の核兵器の歴史において、キューバ危機の前にも後にもニアミスが何度も起きている。

一度ならず、命令に知性で対抗した勇気ある個人の行動によって、大惨事が回避された。1983年にソ連の核早期警戒システムが、米国のミサイルが発射されたと警報を2度も発したが、幸運なことにソ連空軍のペトロフ氏が誤警報と見分け、誤った報復核攻撃を阻止した。

なぜ「運頼み」を続けるのか

世界が大惨事を回避してきたのは驚異的だが、なぜ運頼みを続けるのか。

2012年に核兵器の人道的影響に関する取り組みが構想されて以来、大半の国々が支持に乗り出した。軍備縮小ペースがあまりに遅いことへの懸念といらだちからだ。が、世界の首脳たちは気候変動や持続可能な発展など、ほかの問題にまず注意を集中するべきではないか、と問う人がいるかもしれない。

過去の世代が大気中に増加させた炭素と同様、核兵器は乗り越えるべき負の遺産の1つである。が、使用できず、維持に多大な費用がかかる核兵器は、簡単に把握して取り除けるリスクであり、いわば低いところにぶら下がる果実だ。

核兵器保有国に対して所持をあきらめるように導くのは簡単でない。一部の国々が保有するかぎり、ほかの国々もねたみと恐れのため保有を望むだろう。

が、現在の状態は過去の思考を反映している。これらの冷戦の遺物は、時代遅れの安全保障のツールであり、かえって安全でない状態を引き起こすとの声がさまざまな方面から聞かれる。

30年前、「ザ・デイ・アフター」が1人の大統領を奮い立たせた。ウィーンの会議の目的は、核兵器使用の影響について最新の証拠を人々にもたらすことだ。1983年に思われていたよりも、状況は険しく、結末は恐ろしい。

核兵器が存在するかぎり、その使用がもたらす影響から目を背けるのは無責任だ。この影響には解毒剤も保険もない。致死性ウイルスでも環境への長期的な脅威でもなく、人類が作り出した技術の有毒な果実だ。制御できるものであり、制御しなければならない。

週刊東洋経済12月27日-1月3日合併号

セバスチャン・クルツ オーストリア外相

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Sebastian Kurz

1986年生まれ。2013年、27歳で外相就任。核兵器の非人道性に関するウィーン会議を主催。

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