「企業、家庭とも長期間の電力途絶を想定して対策を」 【プラスオリジナル】中林一樹・首都大学東京名誉教授に聞く

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中林一樹(なかばやし いつき)/ 1947年生まれ。1972年に東京都立大学工学研究科建築学専攻修士課程修了、1975年同博士 課程退学。1976年の酒田大火(山形県酒田市)をきっかけに都市防災・復興研究を始める 。東京都立大学、首都大学東京教授、2011年より明治大学危機管理研究センター特任教授 などを歴任。現在、明治大研究・知財戦略機構研究推進員。内閣官房「ナショナル・レジリエンス懇談会」委員(防災分野)、東京都火災予防審議会会長など多数。

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週刊東洋経済 2020年2/1号
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内閣府中央防災会議「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」は2013年12月に、「首都直下地震の被害想定と対策について」(最終報告)を公表した。
東日本大震災の教訓や、当時の最新の科学的知見に基づいて検討された、さまざまなタイプの地震発生の可能性を踏まえて策定された同報告書では、首都直下地震の最悪の場合のシナリオ(都心南部直下地震のタイプ)として、約2万3000人が死亡し、建物倒壊および地震火災による焼失を併せて約61万棟が全壊・焼失すると想定した。
また、電力供給については、地震発生の1週間後でも1都3県の停電率が約5割に達したままの状態で、停電影響により、固定電話および携帯電話の約5割が通話できない状況が続くとしている。
その後に発生した2018年9月の北海道胆振東部地震では、送電線のみならず火力発電所の被災により、北海道全域が停電する「ブラックアウト」が発生。電力供給の危うさが浮き彫りになった。
報告書やブラックアウトから何を学び、どう備えるのか、首都直下地震対策検討ワーキンググループの委員を務めた中林一樹・首都大学東京名誉教授に聞いた。

生活に最も影響を及ぼすのが電力の途絶

──報告書は、電力供給に関して厳しい想定をしていますね。

首都直下地震は北関東を含めてさまざまな場所で起こる可能性がある。東京の直下だけで起こるわけではない。そのことについて、しっかりと認識しておく必要がある。ワーキンググループでは、そのうち最も被害が大きい「都心南部直下地震」を基に被害を推定した。

報告書を読んでもらえば分かるが、被災者の生活に最も影響を及ぼすのが電力の途絶だ。報告書では、「震度分布によっては東京湾沿岸の火力発電所の大部分の運転が停止することも想定されるが、電力事業者の供給能力は、関東以外の広域的な電力融通を見込んでも、夏場のピーク時の需要に対して約5割程度の供給能力となることも想定される」と指摘されている。また、「最悪、5割程度の供給が1週間以上継続することも想定される」とも記述されている。つまり被害が非常に大きいということだ。

しかし、実際にはさらに厳しいかもしれない。首都直下地震時の想定は東京電力の自己想定の結果に基づいている。あくまでも地震発生に伴う運転停止と送電施設の破損による停電で、設備の大規模な損壊は想定していない。しかし、火力発電所には1960~70年代に建設されたものも少なくなく、耐震性の不十分さや老朽化も懸念される。

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