東京電力、「再値上げ1年封印」の真意 原発なしで増益だが、再値上げの可能性も

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実際、原発再稼働のメドはまったく立っていない。今後策定し直す総特では、原発再稼働の想定時期を2015年7月以降へ1年程度遅らせるもよう。だが、これはあくまで”仮置き”。現在、原子力規制委員会による柏崎刈羽6、7号機の新規制基準適合性審査が行われているが、まだ序盤であり、今後も地質問題などで難航が必至だ。地元の新潟県知事も、福島第1原発事故の総括が不十分として再稼働は論外との姿勢を崩していない。

ただ、2015年中に原発再稼働がなければ即、再値上げ申請ということではないようだ。繰り延べによる削減分は、できるだけ恒常的なコスト削減に置き換えていく方針も同時に示しているからだ。

社員の意識が変わってきた!?

また、數土会長は「日本のエネルギーコストは韓国や米国の2~3倍も高く、何とかして低減していきたい」「2016年からの電力小売り完全自由化など、環境の激変を経営努力で吸収していく」などと述べている。これらは、できるだけ値上げは避けるという意思表示と受け止められる。もし原発再稼働が実現すれば、業績改善分の多くを料金値下げで利用者へ還元するというシナリオだろう。

今の東電にとって、原発再稼働に依存した経営は難しい。料金値上げも最後の手段だ。東電が全面自由化時代を生き抜く最大の原動力は、業界他社を置き去りにするようなコスト改革と顧客本位のサービス戦略だろう。

“外様”のトップゆえに、社内保守勢力からの風当たりも強いと見られる數土会長。だが、全社的な生産性倍増活動を通じ、社員の意識が少しずつ改革に対して前向きに変わってきたことが「コスト削減の数字以上に大きな収穫」ともいう。新生東電へ向けた數土改革の進展が注目される。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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