画期的新薬が使えない、難病患者の知られざる苦悩
「運命の薬との出会い」(渡邉さん)は同年2月27日に訪れた。30分ほどかけてソリリスの点滴を行い、2時間後にトイレで用を済ませた渡邉さんは目を疑った。尿が正常な色に戻っていたからだ。翌日も尿の色は正常だった。3回目の投与をした3月22日には、溶血の尺度であるLDH(乳酸脱水素酵素)の数値が健常人のレベルまで改善した。
体調もみるみるうちによくなった。09年7月には10年ぶりにゴルフを楽しみ、10年5月には尾瀬に水芭蕉を見に出かけた。
治験に関与した東海大学医学部の安藤潔教授は「これほど効果が顕著な薬は珍しい。輸血の量や回数を大幅に減少させることや、患者さんの生活の質(QOL)を大幅に改善するという点でも画期的な薬だ」と話す。
自己負担は年間70万円強。治療に踏み切れない人も
ただし難点もある。患者数の少ない病気の治療薬として開発されたことから薬価が著しく高い。1カ月の薬剤費は300万円を超す(下表)。「投与をやめると再び溶血が起こる可能性が高く、一度始めたら使い続ける必要がある」(西村助教)。
自己負担軽減のための高額療養費制度を利用した場合でも、治療費は依然として高額だ。「一般区分」(勤労者世帯の場合、3人家族で年収約210万~約790万円)に属する世帯の自己負担は、薬剤費だけで年間70万円を超す(同表)。そのため、治療に踏み切れない患者もいる。九州地方に住む山口和子さん(仮名、48)もその一人だ。
山口さん一家は、夫婦および子ども4人(うち1人は社会人)の6人家族。近い将来、子どもの大学や高校進学で教育費がかかるうえ、住宅ローンも抱える。「生涯にわたって多額の医療費を払い続けるのは不可能です」と山口さんは打ち明ける。