画期的新薬が使えない、難病患者の知られざる苦悩
岐阜県可児市に住む渡邉信之さん(67)を病気の苦しみから救ったのは、米国のバイオ製薬企業が開発した画期的な新薬だった。
米アレクシオンファーマが開発した、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬「ソリリス」(一般名「エクリズマブ」)は、遺伝子組み換え技術を用いた抗体医薬だ。2010年6月に発売されたこの薬により、渡邉さんの病状は劇的に回復。穏やかな日常生活を取り戻した。
PNHは赤血球の破壊(溶血)を特徴とする難治性の病気(難病)だ。血液細胞のもととなる造血幹細胞が突然変異を起こし、大量に作られた異常な赤血球が溶血することで、腹痛、呼吸困難、貧血や強い疲労、嚥下障害、ヘモグロビン尿(暗色尿)などの症状を引き起こす。「重篤になると腎機能不全や血栓症などから死に至る可能性がある」(大阪大学大学院医学系研究科の西村純一助教)。10年前の研究報告では全国の患者数は約430人と推定されている。
新薬の劇的な治療効果。生活の質が大幅に改善
渡邉さんにPNHの症状の一つであるヘモグロビン尿が出たのは03年6月。朝、コーヒー色の尿が出ていることに気がついた。翌日には止まったが、1カ月後に再びコーヒー色になり、10月半ばからは毎日出るようになった。それとともに、いすに座っていることも苦痛になり、強烈な倦怠感が襲ってきた。 渡邉さんは仕事を続けることができなくなり、12月8日に勤務先の会社に退職願を提出。翌日、緊急入院した。
そのとき、渡邉さんは自身の病気について、次のような説明を受けた。
「骨髄移植でしか治らないが、完治するとは限らない。10年生存率は5割程度で特効薬はない」
渡邉さんは「これも運命だ」と覚悟を決めた。病状はその後、さらに重くなり、入退院を繰り返す。06年3月から2年近くの間に、輸血の回数は34回に達した。ソリリスの治験への参加を医師から勧められたのは、そのさなかだった。即座に了承。08年2月、神奈川県伊勢原市の東海大学医学部付属病院に向かった。