東証と証券会社は「利益相反」の関係へ? 証券会社の猛反対で、取引時間拡大見送り

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ちなみに、「取引所の株式会社化」の先進国である米国などでは、株式会社化を契機にして、取引所と会員証券会社の関係が変質していった経緯がある。株式会社化以前では、取引所と会員証券会社は同一利害関係にあったものの、取引所が株式会社化して以降、取引所の利益拡大策が必ずしも会員証券会社の利益とはならなくなったからだ。

たとえば、取引所が収益拡大策として売買執行手数料を引き上げると、会員証券会社の注文執行コストは増加することになる。利益相反する関係に変わったことで、会員証券会社自身が私設市場を創設する「市場の分断」の動きにつながった。

まだ取引時間の拡大をあきらめていない

今回、取引時間拡大が自身の人件費増などコスト膨張に直結することを反対の理由の一つとして挙げた証券会社が多い事実は、ある意味で、米国などのように取引所と会員証券会社が「利害共同体」から「利益相反」の関係に変質しつつある兆候のようにも見える。

日本取引所グループの首脳は、「構想実現は諦めない」という趣旨の発言を放っている。その意思の表明は、資本市場の中核である証券取引所の運営主体としての立場から出たものだ。その一方で、上場企業である日本取引所グループがコーポレートガバナンス・コードに則って、株主に対して合理的に説明する責務を負うことにもつながる。奇しくも11月25日、日本取引所グループの前に二つの大きな課題が加わったことになる。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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