瓦解したアベノミクス、解散した”真の目的” 消費増税先送りで財政膨張に歯止めなし

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そもそも、「社会保障の安定財源の確保及び財政の健全化」を目的とする消費税法の改正に、経済指標次第という附則をつけたことが奇妙だ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は当初から「増税1年前の経済指標を増税の判断材料にするのは意味がない。増税は景気を当然下押しする」と指摘。「財政再建のために増税は避けられないとしながら、増税判断時の指標をよくするために、大型の補正予算を編成するのは本末転倒」と批判していた。

日本経済が1990年代から直面した最大の問題は潜在成長率の低下だ。労働力人口が減少に転じ、資本ストックも余剰となり、調整の過程で需給ギャップが拡大しデフレとなった。デフレは病の結果であり、根本原因ではない。

しかし安倍政権は「デフレ脱却」を何より優先し、黒田東彦日銀総裁は10月31日に追加緩和を決めた。理由は原油価格の下落。総裁自身、「原油価格下落はやや長い目で見れば経済活動に好影響を与える」としながらも、「デフレマインドの転換が遅延する」ことを重く見た。何としてでも「2%の物価目標」を実現する構えだ。

追加緩和が生んだ株高、円安、インフレ

追加緩和が生んだのは、株高、円安、インフレ。その反面、円安でも輸出は伸びず、物価高と増税が消費を下押しする。実体経済への効き目は薄く、かつ、格差は広がる。

二人以上の世帯のうち、有価証券を保有するのは、16.8%のみ(金融広報中央委員会、2014年調査)。株高の恩恵にあずかれる人は一部で、経済全体への寄与は大きくない。官製ベアで名目賃金が増えたのも、輸出企業を中心とする、一部の大企業の社員。多くは蚊帳の外だ。14年上半期の現金給与総額の増加は前年比で1.3%、消費税を含む物価上昇率は3%を超え、実質賃金は低下している。

格差は拡大している。みずほ証券の末廣徹マーケットエコノミストによると、「定期収入上位層の収入の伸び率は高いが、定期収入下位層の伸び率は足元でマイナス」。さらには「賃金を事業所の規模別に見ると、14年度は、500人以上の事業所と30人未満の事業所の格差が、顕著に拡大している」という。円安と消費税は低所得層にさらに重くのしかかる。

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