グローバル金融業界は過去数十年にわたり、ロシアの企業と資産家、政府の要望に熱心に応じてきた。そして軍の戦車がウクライナに侵攻を開始した。
軍事侵攻と国際的な制裁を受け、ロシアに数千人のスタッフと数十億ドルの資産を擁する米銀シティグループは現地ビジネスを大幅に縮小する方針。ゴールドマン・サックス・グループとJPモルガン・チェースはロシアからの撤退を発表し、ドイツ銀行も段階的な業務縮小にかじを切った。
一部の金融業者はアラブ首長国連邦(UAE)ドバイ首長国などに拠点を移そうとしており、法律家や他の専門職も続いて動いている。
それは恐らく、主要経済国・地域で記憶に残る最も厳しい、最も迅速な排除の動きだ。過去数週間のすさまじい猛ダッシュを通じて、米英や欧州連合(EU)が絶えず更新する制裁の内容を理解し、実行に移す対応が行われた。
活気に満ちたデスクが停止したのはモスクワだけではない。さばききれないロシアの株式・債券をトレーダーは抱え、連動するデリバティブ(金融派生商品)も宙に浮く。今や「害毒」でしかないロシア資産家のために働いてきたプライベートバンカーらは、顧客がロンドンの邸宅を掃除する費用の支払いにさえ事欠く状況にいら立っている。
ブルームバーグの集計データによると、ライファイゼン・バンク・インターナショナルやシティ、ドイツ銀など十数行のロシアへのエクスポージャーは合計約1000億ドル(約12兆円)に上る。それでも、バランスシートがロシアビジネスへのいかなる打撃も容易に吸収できると金融機関は強調する。
ロシア軍のウクライナ侵攻から数時間経過した段階で、モスクワの金融関係者は、先月まで活気にあふれて見えたビジネスが事実上崩壊する様子を目の当たりにした。地元で勤務するある投資マネジャーはその日の朝、同僚に起こされて急ぎオフィスに向かった。年金基金向けに60億ドル相当を運用管理していたが、顧客資産の価値はごくわずか、恐らくゼロになった可能性が高いと今は考えている。マネジャーが匿名を条件に話した。
モスクワを拠点とするトレーダーグループを統括する別のマネジャーが匿名で語ったところでは、外国のブローカーが取引を停止したことで、デスクの活動は4分の1に減った。ロシアから撤退する他社が後に残していくビジネスの獲得を期待しているという。
事情に詳しい匿名の関係者1人によれば、米国の制裁対象となり、英国部門が凍結されたVTB銀行のスタッフは、多くの欧米法人に電話したり電子メールを送ったりしてもほぼ返答してもらえないと分かった。投資銀行バンカーが取引先とのトレードを手じまうこともこれでは難しい。
この関係者が明らかにしたところでは、ロシア2位の銀行VTBと一部法人は連絡を取り続け、未決済のトレードをおおむね何とか解消できたが、制裁公表時に関係を絶った他の多くの法人は、取引解消にずっと長い時間がかかりそうだ。VTBはコメントを控えている。
かつてロシアにとって最大の外国人投資家の1人であり、プーチン大統領への批判で今は有名なビル・ブラウダー氏は、欧米の投資銀行がロシアの対外開放と資金の海外投資で不可欠な役割を果たしてきたと述べ、「欧米の投資家が多額の資金をこれらの法人やそのオーナーに投じることができるほど、十分に新興財閥(オリガルヒ)を全てまっとうであるかのように見せた」と指摘する。
ロシアとグローバルバンクとの複雑に絡む関係を示す一例が、EUと英国の制裁対象であるロシアの富豪ミハイル・フリードマン氏やピョートル・アベン氏らが共同で創業した投資会社レターワン・ホールディングス(本社ルクセンブルク)だ。英銀HSBCホールディングスのファンド・オブ・ファンズは、レターワンからの投資配分が2020年末時点で約5億4700万ドル、ブラックストーンの同種のファンドは約4億3500万ドルという。
ヘッジファンドにも清算求める圧力、ロシア新興財閥系と関係解消迫る
JPモルガンは国内最大手行ズベルバンクやVTB、シティ、ソシエテ・ジェネラル、UBSグループと並び、ロシア企業の社債発行分野のビッグプレーヤーだったが、ロシアビジネスの解消を積極的に進めており、閣僚経験者であるズベルバンクのヘルマン・グレフCEOも著名人が名を連ねる国際カウンシルのメンバーから外したと説明した。
原題:Wall Street’s Retreat From Moscow Is Fastest, Harshest Ever(抜粋)
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著者:Harry Wilson、Matthew Boyle、Srinivasan Sivabalan
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