アダム・スミスを誤解している人が知らない凄み なぜか評価が二極化している経済学者の重要性

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しかもスミスの場合、学問的な評判は経済学界にとどまらない。主に英語で書かれた学術雑誌の総合データベースJSTOR(ジェイストア)を使って1930〜2005年に発行された雑誌全文の詳細分析をしたところ、スミスは経済分野における「偉人」として引用される例がきわめて多いことがわかった。最新の合計では、「偉人」と表現された回数はマルクス、マーシャル、ケインズを足し合わせたよりも多く、且つ現代の経済学者の合計の3倍を上回ったのである。

アダム・スミスの思想は幅広い分野にまたがっているだけに、その影響も広範だ。過去2世紀にわたり、哲学から政治学、社会学まで多くの偉大な思想家にスミスの何らかの痕跡が認められる。

たとえばエドマンド・バーク、イマヌエル・カント、G・W・F・ヘーゲル、カール・マルクス、マックス・ウェーバー、フリードリヒ・ハイエク、タルコット・パーソンズ、ジョン・ロールズ、ユルゲン・ハーバーマス、そして最近ではアマルティア・センがそうだ。

よい税金に関するスミスの4つの格言は世界の税制の基本となっているし、あの有名な「見えざる手」は講演やメディアのそこここに登場する。またアダム・スミスの名を冠した機関、専門誌、ソサエティの類いが世界中にあり、プーシキンの小説の中ではエフゲニ・オネーギンもスミスを勉強している。イギリスでは20ポンド紙幣の裏面に長らくアダム・スミスの横顔が使われてきた。

だが称賛や批判とは別に、並ぶ者のないスミスの名声を自分に都合のいいように援用する例が後を絶たない。

現代を予見!? 伝説化されるスミス

スミスの残した知的偉業があまりに豊かで、多面的で、引用しやすいがために、多くの人がむやみに引用したくなったり、都合のいいようにねじ曲げて解釈したくなったりするのだろう。

実際、最大限の拡大解釈をすれば、スミスは現代の出来事を驚異的な精度で予見していたと読めなくもない。たとえば、「セレブリティ・ポリティクス」の台頭がそうだ。情報技術の発達と金持ちや権力者を称賛する人間の気質とが結びつき、そこに互いに共感しやすい傾向が加われば、有名人の政治家が誕生しても不思議ではないが、なんとスミスは『道徳感情論』の中で技術についても気質についても論じているのである。

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