中国自慢のコロナIT監視体制が持つ大いなる穴 音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」上

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私たちには当局からとりあえず「ホテルから出るな」というお達しが来て、スタッフが楽器の片付けに行った以外はホテルにて次の連絡を待つ。この時点で、広州に着いた時にインストールさせられる「健康管理アプリ」を開くと、まだ緑色だ。これは当局の感染管理のために使われているアプリであり、さらにあらゆるところで提示させられる行動管理アプリも、安全ならアプリの画面が緑色となる。感染、もしくは隔離が必要な状況なら赤になる。緑色であるなら、コンサートがいきなり中止になったという「大ごと」の割には、この時点では私たちはクラスターというか危険な存在ではないことを物語っている。

広州市の健康管理アプリの画面(写真・本人提供)

日本だと、たまたま同じ新幹線に乗り合わせた人間を「濃厚接触者」と言うだろうか。まあ中国では、日本では特定が困難であろう「すべての接触者」を調べ上げてその全員と連絡を取るのだ。

しばらく経って「PCR検査を受けに行け」ということで、全員で近所の病院に受けに行く。この時点では、誰も私たちを監視しているわけではなく、健康管理アプリも行動管理アプリも緑色なので列車にも乗れるし逃げることもできる。しかし、それが問題となって次のライブも中止にさせられるのが怖い。したがって、言うことは聞いておこうという感じだ。

 

WeChatで隔離者グループを作成させられる

大人しくホテルに帰ってすぐに通知が来る。「隔離施設にて4日間の隔離」。よくある14日間の隔離だとツアーの行程が心配だったが、4日だったらライブ公演は1本だけキャンセルすれば事足りる。物々しい防護服を着た人たちがホテルまでやって来て、私たち全員に防護服を着せて、用意した隔離用のバスに乗せられて隔離施設となるホテルへ向かう。

隔離生活の準備とか何もやってないが、防護服を着させられたまま商店に買いに行くわけにもいかず、同じく防護服を来た人たちに買いに行ってもらうわけにもいかない。「簡単なものなら隔離施設のスタッフが買って部屋まで届けてくれる」という情報を信じて、そのまま施設に入る。施設は結構いいホテルで、広いツインの部屋をひとりでのびのびと使える。前回の隔離では酒類の購入はおろか持ち込みも禁止だったが、今回は持ち込みに関してはうるさくなかった。

ホテルに入るとすぐさま、防護服を来たスタッフが各部屋を回って来て、中国のメッセンジャーアプリ「WeChat」を使って、ここに隔離されている人たちのグループに参加されられる。そのグループでいろんな伝達を行うわけである。中国では、基本的にこのアプリがないと生活ができないほど、浸透しているアプリである。このグループに入ったら、ハンドルネームを本名に変更しなければならないのだが、「このグループに誰かから友達申請を受けても絶対に承認しちゃダメよ!!」とマネジャーから強く言われる。

もし本名を見て「あ、これは布衣のメンバー?」と思った人が「布衣のメンバーと一緒に隔離している」などと広められたら、風評被害とかで次のライブとかに影響が出るのを恐れているのだ。もちろん私たちも全員隔離の事は口外してはならない。公式発表としては「ツアーでいろんな土地に行くので、コロナの影響で足止めされて広州から出られない」にとどめている。

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