インドネシア高速鉄道に中国「中古機関車」の謎 「うなぎを注文したら穴子」どころではない驚き

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ジャカルタ―バンドン高速鉄道は、東南アジアで初の高速鉄道になるはずで、国威発揚にも一役買っていた。しかし、蓋を開けてみれば、ラオスに先を越されてしまった。2021年12月に開業した中国ラオス鉄道(総延長422km、2015年着工)は、最高時速160kmの単線路線と言えど、在来線とは一線を画す仕様であり、「準」高速鉄道と呼ぶのがふさわしい。

もともとインドネシアも、2015年に日中の国際入札が流れた後、コスト圧縮のために一度はこの規格で検討していた。しかし、中国側が政府保証を求めない民間方式を提案したことで「フル規格」に戻ったのみならず、設計最高速度が時速360kmに引き上げられたという経緯がある。

ともあれ、東南アジアの雄たるインドネシアがラオスに後れをとったという事実は、政府に少なからず衝撃を与えた。だから、何が何でもG20までに間に合わせたいのである。

ちなみに、中国ラオス鉄道では新型の高速列車のほかに、中国国鉄の車両をそのまま用いた機関車牽引の客車列車(最高時速120km)の設定を当初から計画しており、まもなく運行開始予定である。運賃が安く、荷物をより多く持ち込めるとなれば、庶民からの人気は高まるだろう。高速列車、一般列車、貨物列車が一つの線路を走れるのが中国規格の強みである。

首都移転も高速鉄道に逆風

さらに、ジョコ・ウィドド大統領が同時に進める首都移転が高速鉄道にとって逆風になっている。首都がジャカルタからカリマンタン島ヌサンタラに移転した場合、高速鉄道利用者の減少は避けられないと指摘されているからだ。

そこでKCICは、高速鉄道普通車(2等)運賃を現状の在来線特急「アルゴ・パラヒャンガン(Argo Parahyangan)」号と同等の15万ルピア(約1240円)に設定すると発表した。元の計画では、普通車でも25万ルピア(約2070円)~30万ルピア(約2480円)程度で、在来線特急よりも割高になるはずだった。

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KCICは1日利用者を2万9000人と見積もり、40年間でローンを返済するとしている。在来線特急は高速鉄道開業時に全廃されるため、値下げの結果、1日1万人前後の鉄道利用者(コロナ禍前実績)がそのまま高速鉄道に転移するものと思われるが、2万9000人には程遠い。目標達成は、いかにして低廉な高速バス、そしてマイカー利用者層を取り込めるかにかかっている。

現状の在来線特急で2時間半~3時間を要するところを45分に短縮しなくとも、1時間~1時間半程度で結べば十分なインパクトはある。その分、運賃を下げたほうが理にかなっている。中国からやってきた5両の機関車が意味するものは一体何なのか。G20に合わせた試乗会以外にも、何か裏があるのではと思うのは気のせいだろうか。習近平国家主席の来訪まで、あと半年強。インドネシアはどんな決断を下すのだろうか。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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