インドネシア高速鉄道に中国「中古機関車」の謎 「うなぎを注文したら穴子」どころではない驚き

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政府が2022年のソフト開業を掲げ、急ピッチで工事を進めるのにはわけがある。それは、10月30・31日にG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)がバリ島で開催されることである。今回はインドネシアが初の議長国を務めるだけでなく、東南アジアで初開催のG20としても注目されている。これに合わせインドネシアを訪れる中国の習近平国家主席を高速鉄道の試乗会に招待するというのである。習近平のみならず、他国の首脳も招待されるかもしれない。つまり、10月下旬までに、なんとかして走らせなければならないのである。

しかし、10月までにソフト開業できるかと言えば、かなり怪しい。政府発表の進捗率8割という数値も眉唾ものだ。KCICの担当者は、この数値は橋やトンネルなどの基礎的なインフラ部分、一般人から目に見える部分のみの数値なのではないかと首をかしげる。実際、電力や信号、通信設備などの部分はまったく手つかずの状態である。試運転なしでぶっつけ本番で走らすとしても、10月の開業は絶望的である。しかし、先の担当者は「とは言え、政府から指示されたことを日々やっていくしかない」と、神妙な面持ちで語る。

トンネル未貫通、橋脚は造り直し…

もう1つの問題は、一部のトンネルの着工、進捗が大幅に遅れていることである。バンドンは標高約700mの高原都市であり、途中の山越え区間(約40km)に12カ所・計約15kmのトンネルが存在する(このほか、高速道路地下をくぐるためのトンネルがジャカルタ側に1カ所ある)。

そのうち、「トンネル2」が軟弱地盤であることが発覚し、工事が大幅に遅れている。昨年末には中国人技術者を急遽呼び寄せ、現在の掘削率は7割ほどである。このほかにも2つのトンネル(トンネル4・トンネル6)が昨年末時点で貫通していなかった。さらには、山間部の一部区間で橋脚のズレが発覚。当該橋脚を一度解体し、造り直しが発生している。いずれにせよ、レールはバンドン側から順に敷設するしかないため、トンネルが完工しなければその地点よりジャカルタ側の工事を進めることができない。

これらを加味すると、10月末時点で試乗が可能なのは、バンドン側の一部区間に限られると思われる。かつ、非電化での暫定走行をせざるをえないのではないか。本当に試乗会を開催するのであれば、東風4B型で高速鉄道車両を牽引するという「ウルトラC」を採るほか方法がない。しかし、これまでのインドネシアの鉄道プロジェクトの顛末を見ていると、これを真剣に考えている可能性が高いのではないかと思われる。

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