ここからは少し余談めいてくるが、おでんを巡る各社の戦略も非常に面白い。例えばサークルKサンクス。前出の11月3日日経MJコラムには、「サークルKサンクス“チョイ足し” おでん、気軽に“自分流”」という見出しと、合わせて掲載されたおでん売り場写真には、「“チョイ足し”コーナーに並ぶ札から好きな商品を選ぶ」というキャプションが付いている。
おでん鍋の前に8種類の札が設置されている。つゆに溶かして味を変える、スープ代わりにする「カレー」「チゲ」「とんこつ」「コラーゲン」の粉末スープ。具材として追加して主食機能を持たせる「おこげ」「焼き餅」「うどん」。人気の「ピリ辛練りラー油」も用意されている。
記事によると、同社では従来の70円~125円から80円と100円の2つの均一価格に見直した。計算しやすさを重視した取り組みであるとし、70円ではないが、上記と同様に「現状維持の法則」を打破する狙いが見える。
「チョイ足し」の展開は、購入数量を増やす「アップセリング」に加えて、「関連商品の購入」を意味する「クロスセリング」で収益の向上を図る狙いだ。クロスセリングをしつつ、飽きさせないために様々な具材を試させる。そのため、表面に焦げ目を入れる焼き餅などは「通常は100円を超す商品」というが、あえて100円を切る90円に設定したという。
つまり、収益が低い、場合によっては赤字を覚悟で客を集める商品=「ロスリーダー」も設定しているのである。
手に取らせたい客は誰か。同社の真の狙いは、「おでんの購入数量1人当り4個程度で頭打ち」打開のため、「新規顧客を獲得すること」だという。おでんといえば、店内に漂う香り、味に大きな違いはない。それに対して「チョイ足し」で魅力を高め、「70円均一」から抜け出て「80円・100円均一」に賭けている。
消費者から見れば、“たかがおでん”。店側からすれば“されどおでん”なのだ。秋、冬の主力商品として各社がしのぎを削るおでん売り場からは、それぞれのマーケタ-の創意工夫が見てとれる。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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