日本人がしがみつく「東京モデル」の悲しい結末 河合雅司×牧野知弘「人口減少で仕事はどうなる」

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河合:2030年の労働環境を考えてみましょう。2030年に25歳となるのは110万9000人、35歳は125万9000人、45歳は141万人、55歳は184万3000人と、完全な逆ピラミッドです。もちろん、これがそのまま各企業の従業員構成にスライドするわけではありませんが、かつてのピラミッド型に戻すことは無理でしょう。

従業員構成のピラミッドが壊れると、年功序列による賃金制度がもたなくなります。給与水準の高い中高年が組織に占める割合が大きくなりすぎて、総人件費が膨張するからです。若年層の減少を、定年延長などによって穴埋めしようという企業も増えれば、なおさらです。総人件費を薄切りにせざるをえなくなります。すると、早い段階で昇給カーブが抑え込まれる若い従業員ほど割を食います。結果として、生涯賃金にかなりの差がつくことになり、不満がたまります。

年功序列が維持できなくなると、終身雇用も崩壊します。長く勤めていても給与が上がるとは限りませんから、よりよい条件を求めて職場を移る人が増えるでしょう。各職場で世代交代が行われづらくなるわけですから、組織の新陳代謝が進まず、「馴れ」やマンネリが起こるようになります。年功序列も終身雇用も、つねに社会に一定規模の若年層がいるから成り立つ仕組みなのです。

さらに、雇用の偏在も懸念されます。若年層の絶対数が減るのですから、成長産業やリーディングカンパニーが若くて有能な人材を囲い込み、そうではない企業・職場は思うように人材を確保できなくなるかもしれません。

日本企業が成長しない理由の1つに、日本人全体のスキル不足があります。人口が減っていくのですから、個々人のレベルアップを図らなければ、生産性は上がりません。

それは雇用の流動化と表裏の関係にあります。能力が上がれば、もっと給与の高い仕事に就きたいと思うのが当然で、転職が活発化するからです。このように、日本社会全体として個々人の能力を向上させながら雇用の流動化が進む状況を作っていかないと、いつまで経っても成長分野が育ちません。

これまでの仕事を棚卸しし、自身の職能に気づく

牧野:私は大学卒業後、銀行(第一勧業銀行、現みずほ銀行)→コンサルティング会社(ボストンコンサルティンググループ)→不動産会社(三井不動産)と渡り歩いてきましたが、自身の職能が1本でつながっているのは、自ら能力、そしてジョブ機能を磨き続けてきたからです。

能力と言うと、きわめて高い水準をイメージしがちですが、自分の「得意なこと」「できること」であり、それはこれまでこなしてきた仕事を棚卸しすることで、わかります。要は気づくか、気づかないかです。

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河合:雇用の流動化に関しては、副業・兼業の広がりが背中を押すきっかけの1つとなりそうです。本業に生かしたいとか、家計の足しにしたいという動機で始める人も多いですが、その経験はスキルアップにつながります。転職にまで発展しなくとも、定年後の再就職において有利に働くことでしょう。

企業にとっては、副業・兼業はDXを推進するにあたって労働生産性の低いベテラン社員を減らす体のいいリストラ策となっている側面もあります。日本では、簡単には従業員の首を切ることはできません。企業の本音としては「副業・兼業を認める代わりに給料を抑えます。それが嫌なら自発的に辞めてください」ということです。

(次回のテーマは「街、住まいはこうなる」です)

河合 雅司 作家、ジャーナリスト

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かわい まさし / Masashi Kawai

1963年名古屋市生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを歴任後、一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員、厚労省ほか政府の有識者会議委員も務める。「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』(講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『コロナ後を生きる逆転戦略』『世界100年カレンダー』。2021年6月に『未来のドリル』(講談社現代新書)を刊行。

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牧野 知弘 不動産事業プロデューサー

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まきの ともひろ / Tomohiro Makino

1959年生まれ。東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て三井不動産に勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在はオラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産プロデュース業を展開。また全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立。代表取締役を兼務。著書に『不動産の未来』『負動産地獄』『空き家問題』『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)など。

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