稼げないソニー! テレビ新製品を連発し、出荷台数急増でも…[下]
安定調達の手法として、シャープの大阪・堺液晶コンビナートで合弁を組み、パネルを共同生産する枠組みを08年に構築した。しかし、数量や価格面で折り合わず、ソニーに供給された数量は極めて限定的だ。
自前のパネル生産投資に踏み切っていれば赤字に悩むことはなかった、ということでもない。世界4位の薄型テレビメーカーであるパナソニックは液晶・プラズマパネルの大半を内製するが、08年度から赤字に沈んだまま。数千億円規模の設備投資で償却負担も重い。液晶パネルメーカーとしては国内最大手のシャープですら、夏場のパネル工場稼働率が急落し、自社でパネルからテレビまでをつくる垂直統合モデルの強みは出せていない。
結局、テレビを取り巻く状況が物語るのは、「最も多く生産するサムスンが、テレビでもパネルでも価格競争力を持ち、産業を主導する」ということだ。足元の北米テレビ市場で、ソニーは市場シェアを伸ばしているが、そのシェアはLGエレクトロニクスから奪ったもの。サムスンはソニーと同程度シェアを伸ばしたため、その差が大きく縮まっているわけではない。
ストリンガー会長は社内の会議で、時折こう発言することがある。「協調を阻むサイロは壊した。アセットライトも進んだ。だが、まだ成し遂げていないことがある。中長期にわたって成長と収益をもたらす、新しいビジネスの創出だ」。
かつて出井伸之前会長が煙たがった、創業者の薫陶を受けた重鎮たちはみな退いている。そのため、ストリンガー会長が創業期の面々と経営手腕で比べられることもない。「ストリンガー会長から指示を受ける執行役員たちは調整型が多い。そのため激烈な意見の衝突はめっきり減っている」(ソニーOB)。
しかし、ソニーは「新しいビジネスの創出」ができない焼け野原ではない。最終製品の分野では一部事業の撤退や関連する製品開発施設の閉鎖などを断行したが、デバイスでは最先端分野の研究開発と設備投資を続けてきた。