米国の大幅追加緩和の罠、「1兆ドル説」も飛び交う


今後5年間での輸出倍増計画を掲げ、国内製造業の雇用増を目指すオバマ政権は、「こうした構造を変えるにはもはや為替調整しかないと、中国などへの圧力を強めている」(桂畑誠治・第一生命経済研究所主任エコノミスト)。中間選挙を控え劣勢に立つ米民主党政権だけに、雇用低迷に対する国民の不満の矛先をそらしたい政治的思惑も見え隠れする。

「財政制約のために金融政策に過重な負担がかかる結果、生み出された過剰流動性が一次産品や新興国へ流出し、原材料インフレや資産バブルを引き起こす懸念も強い」(藤井英彦・日本総合研究所調査部長)。

すでに金・銀・銅やアルミ、ニッケルの価格が高騰し、原油も再騰の兆しを見せている。米国は資源の純輸入国で、原材料高は企業のマージンを圧迫。つまり「スタグフレーション(不況下のインフレ)のリスクが大きくなっている」(藤井氏)。

一方、インドネシアはじめ新興国の株式市場では上昇相場が続く。新興国の当局は為替介入で通貨高を抑えつつ、利上げや資本課税などでバブル抑制を図る難しいコントロールを強いられている。安定成長持続の不確実性はやはり大きい。

問題なのはFRBの吐き出すマネーが、中小企業貸し出しや住宅ローンなどの実体経済をほぼ素通りしていること。量的緩和で米国株が高騰すれば資産効果が働き、消費を活発化させる可能性はある。が、バブル頼みでは、結末はまた同じだ。

良質の雇用をいかに国内に生み出すかが、米国の目下最大の課題。金融緩和による自国通貨安政策には、大きな罠が待ち構えている。

(中村 稔 =週刊東洋経済2010年10月23日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

photo:Dan Smith Creative Commons BY-SA
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