米国の大幅追加緩和の罠、「1兆ドル説」も飛び交う
デフレ懸念もくすぶったまま。食品・エネルギーを除く消費者物価指数は08年には2%台半ばだったが、現在は0・9%まで低下している。雇用と物価の安定という二重の責務を持つFRBには看過できない状況だ。ではFRBが想定どおり、量的緩和を実施すると、何が起きるか。
激化する「通貨戦争」 新興国バブル加速も
JPモルガンの菅野氏は、米国の10年国債利回りが現状の2・4%台から2%に向けて低下する結果、現状0・8%台の日本の金利との差が一段と縮まると予測。金利差1・2%のときのドル円相場の理論値を80円とはじく。「マーケットが正常なとき、介入によってレートを動かすのは難しい」とし、政府はデフレ対策を進め、企業は円高を生かした経営を考えていくべきと主張する。
さらに基軸通貨ドルの下落は、「先進国vs.新興国」の対立を激化させるおそれもある。9月下旬にブラジルのマンテガ財務相は、「われわれは国際的な“通貨戦争”の真っただ中にある。競争力が奪われるのは脅威だ」と述べ、日米欧の先進国が金融緩和などで自国通貨安誘導を図っていることを露骨に非難した。
それに対して先進国は、今月8日の先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で、「中国など新興国は柔軟な為替相場を容認すべき」という認識で一致。新興国は為替介入で自国通貨高を阻止しており、それが先進国の輸出を妨げ、貿易不均衡を恒常化させているとの立場だ。
実際に今年5月以降、ドルは対円で約13%下落した反面、中国人民元や台湾ドル、ブラジルレアルに対しては2~3%台の下げにとどまり、対韓国ウォンでは1%上昇している。今年前半の米貿易収支を見ても、中国などの安価な製品を含め、輸入が輸出の伸びを上回っている。