西九州新幹線、佐賀県「フル規格」猛反対の本質 フリーゲージトレインの技術めぐり国と激論

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「北のルート、南のルート、真ん中のルートを3つ並べて比較しましょうとわれわれは言っているのに、北と南は“参考”というのが国の捉え方なのか。議論はゼロベースでフラットにやっていただきたい」。県の山下宗人地域交流部長がこう批判すると、国土交通省の川島雄一郎鉄道課長は「北と南のルートは、具体的なルートや駅が定まっていないなか一定の仮定を置いて示したので“参考”とさせていただいた」と弁明した。

現行案の佐賀駅を経由する中央ルートに加えて、佐賀県は、長崎自動車道沿いを走る北ルート、佐賀空港を経由する南ルートの検討を提案した(図:編集部作成)

とはいえ、“参考”という言葉に他意はないとしても、これまでの経緯を考えれば、誤解を招くような使い方は避けるべきだった。

南回りルートの事業費についても県がかみついた。用地、トンネル、駅など構造別に示された費用の合計は約1兆1300億円。佐賀駅経由ルートと比べると整備延長はどちらも約50〜51kmで大差ないが、南回りルートの建設費は佐賀駅ルートのおよそ2倍だ。割高となる理由は、南回りルートは軟弱地盤を貫くトンネル建設費が非常にかさむためということだったが、山下部長は、「北陸新幹線の金沢―敦賀間の事業費は北アルプス北側の難工事箇所を含めても1km当たり146億円。これに対して、南回りルートは全体で1km当たり221億円。こんなところは日本全国どこにもない。ちょっと現実離れしている」と首をひねる。

FGTが最高時速200km程度で営業運転可能かという点についても、「開発を断念したので難しい」という国の説明に、県は「可能性はあるはず」と納得せず、次回の協議でさらに深掘りすることとなった。

そして2月10日、FGTを主題とする6回目の協議が開催された。しかし、両者の主張は平行線をたどったままだった。

【2022年2月22日13時00分 追記】記事初出時、建設費に関する山下部長の発言の記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

「FGT」これまでの経緯

開発の当事者である国が「できない」と主張するのに対し、県は「可能性がある」と譲らない。どちらの主張がより真実に近いのか。そこで、FGT開発をめぐる経緯を振り返ってみたい。

FGTは2011年3月に「基本的な走行性能に関する技術は確立している」と判断された。ただ、JR西日本はそれ以前からFGTの最高速度が時速270kmにとどまることを理由に、時速300km走行を行う山陽新幹線への乗り入れに難色を示している。

新たに開発された、営業運転用の車両に近い第3次のFGT試験車が報道公開されたのは2014年4月。それまでの無骨なデザインとは打って変わった流線形のデザインが印象的で、こんな雰囲気の車両が西九州ルートを走ると多くの人が信じて疑わなかった。

しかし、耐久走行試験で高速走行時の車軸に摩耗が生じるという不具合が生じ、同年11月に走行試験を休止。国の技術評価委員会は摩耗対策の必要性に迫られることになった。

次ページ対策後も耐久走行試験は先送りに
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事